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その1
ようやく日付が変わるだろうかという深夜。
冒険者用に手配されている旅館の1室にて---------
「とーんー。」
突然起こされる時は、大抵良い夢の途中である事が多い。
今回も例外無く、儲けまくったエンゲージが、幻想の物であると目が覚めていく過程で思い知らされた。切なさと同時に淡い怒りを感じる。おそらくこれが、自分の目覚めが悪いと言われる所以だ。
ゆらゆらと体を揺す振られ続け、ついに我慢が限界に達した。
「・・・せーな、何なんだよ一体。」
まだ朝じゃねーだろ、と相手の顔を確認し、彼はますます憮然とした表情になる。眠そうに目をこすり、自分の服を引っ張っていたのは、いつも何かと気に障る「アイツ」だった。
「寝かせろ、エメット。」
相手が彼なら、言う事を聞く必要はどこにも無い。まして、今は夜だ。夜は寝る時間だ。戦闘中ならともかく、眠る時間に、彼の自分に対する皮肉めいた助言は必要無い。
が。
「とーんートイレぇ。ねーねーいっしょにいこー?」
「はぁ?」
さすがにらしくない発言が気になってバサリと起き上がれば、エメットは今にも泣きそうな顔である。
「エメット、お前熱は?」
額に手を当てる。
「ぽりはトイレいきたいんだよ?も~がまんできないよぉ。」
「・・・ポリ?」
眉をひそめてエメットを見、次いで隣に寝ているポーリーヌを見、さらにその隣で寝ているワイリーを見る。
-------ワイリーを見る?
自分はまだ寝ぼけているのだろうか。頭はもうすっかり覚醒しているつもりだったが・・・。
「・・・ちょっと待ってろ。」
「ふぇえ?」
もうまてないよーというエメットの発言に一抹の不安を感じたが、まずは状況を確認しなくてはならない。
机に置いてあるマッチを摺り、備え付けのランプに灯りを灯すと、後方から唸る声やら小さく文句を言う声やら・・・布団のこすれる音が聞こえたが、彼は今、それどころではなかった。
(俺が、エメットよりデカイ。)
と、いうより視界全体が高くて広い。
恐る恐る鏡を振り返ってみる。
「・・・ベン、トン?」
自分の声に合わせて------それもいつもよりやや低い-------ベントンの口が動いた。
「えっと・・・。」
こういう事ってよくある事なんだろうか?
普段は見上げがちなエメットを見下ろすと、どうしたのだろうか、彼は俯いている。
今更ながら違和感を感じ始めた体で、ベントン、否、ワイリーはエメットの手を引いた。
「ポーリーヌ・・・か?」
「うん。」
小さな返事。さっきよりも元気が無い。
「トイレ、行くか。」
途端、エメットなポーリーヌはふぇ、と泣き出した。
「もー出ちゃったぁー!!」
「何ィっ!?;」
これにはさすがに焦った。
エメットになっているせいだろう、あまり可愛げの無い泣き声に、メンバーも次々起きてくる。
「何だべェ?ポぉリぃヌがトイレ行きてぇって言ってんダか?」
ワイリーが欠伸をしながら起き上がった・・・が、その大きく開いた口がエメットをなだめるベントンを見つけて、開いたままになる。
その声に気付いたベントンが、妙に落ち着いた様子で振り返った。
「なぁ、ひょっとしてベントンは・・・俺か?」
じゃーさ、悪いんだけど、コイツをトイレまで連れて行ってやってくれないか?あ、中身ポーリーヌだから。暗いのが怖いんだと思うから、廊下だけ一緒に行ってやれば良いんじゃないか?あー、俺こういう世話はやった事なくてさ。
自分でも変な発言だとは分かっているが、長く話す事で相手が落ち着くかも知れないと、敢えて喋り続けてみる。
「なァんだっちゃ、オラがふづぅに話てっケど?」
目を白黒させるワイリー。「訛り無しで」喋り続けたのは・・・彼には逆効果だった様だ。
-------と。
「君達、うるさいよ?寝た方が身の為だと思うんだけど?」
笑みが含まれているが、どこか猫を被りきれていない不機嫌な様子で、チェルニー。
肌寒い程爽やかさな闘士に、心地悪さを感じた一同が目を合わせた時だ。
「・・・おぃ。」
ドスは効いているが綺麗な声。
部屋の隅に寝ていたドメニコが、艶やかな長い髪を垂らしたまま、三白眼の物凄い顔でベントンを睨んでいた。
初めて見るドメニコの表情だが、怖い。かなり怖い。
「ほへ?」
泣くエメットも黙る怖ろしさである。
「ベントン、てめーこの夜中に明かりなんぞ点けやがって・・・ぶん殴られてぇのか。」
様子のおかしいドメニコが、手首を鳴らしつつズカズカとベントンになっているワイリーへと歩み寄って来た。ドメニコも寝起きが良いとは言えないだろうが、彼はチクチクと言葉で攻めてくる筈。そう、先ほどのチェルニーの様に。
こんな暴挙に出るのは・・・一人しかいない。
「ちょ・・・多分チェルニー!!たんま!!待て!待ってくれ!!!」
「誰が待つか!!」
すっかり目覚めた他のメンバーが見たのは、麗しい青年貴族が、従者の襟首を引っ掴み、快い音と共に吹っ飛ばした瞬間。
「・・・よし。」
貴族様は両手を腰に当てご満悦のご様子。
「わー;ド、ドメニコさん貴方何しているんですか?!」
慌てたムジカが諌めに入るが、
「るっせー!!ギャーギャー騒いだコイツが悪い!俺は寝る!!!」
頭がチェルニーになったドメニコが聞き入れる筈も無い。そのまま自らの布団に直行し、ものの数秒で寝息を立て始めた。
「なぁ、オラ何か癪に障る事でもしたガ・・・;?」
目前の状況を、あまり理解出来ていないワイリーの横で、
「さぁ。ご免、ちょっと面白かったけど。で、これはどういう事なのかな?」
肩をすくめて答えたのは、チェルニー。
そのまま、ベントンが抱っこして寝ていた筈のポーリーヌに目をやれば、
「とーんー、ほっぺいたいいたいんだょ?」
「良いから・・・お前、下履き替えて来い・・・」
まだ呻いているベントンに、泣き腫らした赤い目で駆け寄る自分を、ポーリーヌは腕組をしたまま、これ以上無い程縦皺を寄せて見つめていた。
***** ***** ***** ***** *****
橘ささ殿の、キャラ入れ替わり4コマに影響を受け、自分も暖めていたネタを書いてみました。
下書き無しで、頭にあったまま、指が動くままに書いた為、グダグダのおちゃらけ文です。書いている側としては楽しかったのですが、読む側が楽しめるかどうかという配慮は一切しておりません(
・・・あ、普段の小説は一応、こうしたら読み易いかなとか考えているんですよ?うむ、一応(ノ∀`*);
漫画が描ければ、文章よりも漫画の方が的確に描ける話かも知れないなぁ。
と、いう訳でして。漫画気分で(?)ささーと流し読みしてやって下さい^^;
とりあえず1話完結の予定で書きましたが、気分次第で続けるかも知れません。まぁ、そこは未定という事でノノ
さて。おふざけを楽しんだ所で、連載物の下書きを完成させてきます(笑)。
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