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~theRord~






 晴天の空のもと、激しい剣の音が響く。

 町の中心部から少し離れた路地の一角で、二人の青年が戦っていた。




 一人は黒に近い茶髪に、精悍な顔つきの青年で、今は簡易な革鎧だが、得物や白いマントを身に付けている事から、騎士である事が窺い知れる。
 その場から全く動かないまま、休む間を与えまいと攻め立ててくる相手の猛攻を、一つずつ受け止めては受け流していた。一撃一撃が重い筈であるのに、鉄棒でも腕に入っているのではと思えてしまう程動じていないのだ。普通なら、とっくに剣もろとも、命さえ取り落としているだろう。



 もう一人は、相手よりもやや目付きが鋭く、やはりよく見られそうな容姿の青年である。先程から激しく動いていながら息も上げず、薄く笑みすら浮かべているその様子は、よく切れる刄を思わせた。一見すると、今彼が攻め立てている相手より線が細いように見受けられるが、袖無しの服からは鍛えられた腕が覗き、使っている武器から察するに、彼もまた騎士の様だ。
 が、こちらは防御よりも動き易さを重視したのか、胸当てと腰の部分が分かれた珍しい鎧を纏っている。
 彼が攻撃を叩き込む度に、長めの金髪がサラサラと揺れた。


 この二人、共に別のクランに属する聖騎士で、今現在守りに撤している方をベントン、素早い攻撃を繰り出している方をシングと言った。








 やや常人離れした両者の一歩も譲らぬ競り合いは、しかし、不動の防が自ら仕掛けたことによって動いた。左肩を凪ぐ様に狙ってきたシングの剣を、ベントンが強力な力で己の後方へと弾き上げたのだ。



「チッ!」



 そのまま大きく踏み込んできたベントンに、シングは鋭い目を更に細め小さく舌打ちし、素早い反撃の一手から、すれすれの所で横転でその背後へ逃れ、仰向けのまま、空中からクルクルと回転して降ってきた自分の得物を再び掴み取る。



 すぐさま、視界から消えた相手を追ってベントンが身体を翻す。



 彼が方膝を伸ばし、もう一方を折る様――アキレス腱を伸ばす時の動きに似ている――に、両手で剣を下方のシングに突き立てんとしたのと、



「甘いな。」
「・・・っ!」


シングがその動きを制さんと、左手で手にしたばかりの剣を真上に出したのは、ほぼ同時、そして一瞬の出来事。
 突如として突き出された切っ先に、ベントンは瞳を見開いてすぐにそれを険しいものにし、寸での所で動きを止める。その表情に満足気な笑みを浮かべたシングだったが、その額からは、やや冷たい一筋の汗が伝っていった。





 ベントンの剣は顕になっている相手の腹部を、仰向けのシングの剣は、目を見開いた相手の眉間を捕えたまま、寸での所で静止していた。
 静止した瞬間から数秒の後、宙を舞っていたベントンのマントが思い出したかの様にふわりと降りる。

 両者共に呼吸を整えながら、更に数秒。







 と、シングは、きゅるー・・・と何とも力の抜けるような音がしたのを聞いた。見れば、剣の真上に見える相手の顔が少し赤く、目が点になっている。


「ベントンお前・・・・・・」


 模擬戦とはいえ、命を掛け合った戦いだったのに。先刻までの緊張感を返してほしい。

 呆れて軽くため息をつけば、ベントンがますます顔を赤らめてしょんぼりしている。剣は自分を追い詰めたままなのに、一体先程までの気迫は何処へ行ったのか。
 怒っているのも馬鹿らしい。やれやれ、とシングは苦笑した。先の音は、目前の男の腹の虫だったのだ。



「・・・どいてくれないと起きられないんだが?」
「あ、ああ・・・面目ねェだス。」


 ようやくベントンが引いたのでシングは背中に付いた砂を払いつつ起き上がる。汗もかいたし、どうせなら洗い流すか、と半裸になると傍らにあった井戸の水を汲み上げた。

 シングが水を被って頭やら顔やらを流し終わると、律儀にもベントンがタオルを持って待っている。
 その様はまるで

(犬の様だな。)

 タオルをくわえたまま、お座りして待っている大型犬。


「・・・お前はいつもそうなのか?」
「何がだべ?」
「・・・いや、気にするな。」

 ぽかんとされた。
 無自覚なら問うても仕方ないだろう。礼を言いつつ、それを肩にかけ、お前もどうだと汲んでやるシングだったが、ベントンは慌てた様子でふるふると首を振った。

「どうした?」
「オラは・・・」

 ベントンが何時までも、もたついているので、シングは、頭からかけてやろうか?とからかった。ボッと頬を真っ赤にし、慌てて上を脱ぐベントンは、前を抑えたまま背中を向ける。

 ―――女かお前は。






「全く、さっきと同じ奴とは思えんな。」

 背中から水をかけてやりながら、だが良い試合だった、と言うシングに、もったいねェ事ダすと嬉しそうな声が返ってきた。

「お前とは練習試合ではなく、本当のエンゲージで渡り合ってみたいものだ・・・温情抜きの本気でな。」



 数々の勢力が、表で裏で互いに争い、彼らの様な職種にあっては気の抜けないこの世界で、協力関係にある二人のクランが敵対する機会はおそらく無いだろう。
 だが、シングは感じる事があった。クランの中で人々の暖かさに触れながら、それでも何処か満足していない自分、腑に落ちない自分を。
 彼はそういう時、戦いたいと思うのだ。


 ―――互いに互いの命しか見えていない様な、そんな―――第三者から見れば―――物騒で、一切の雑念を取り去った真剣勝負を。
 それが剣を持つ者の性か、それともこの身に潜んだもう一人の自分のせいかは分からなかったが・・・。


 楽しそうに、それでいて―――おそらく自覚はないだろうが―――どこか寂しそうに語るシングに、ベントンはうーんと小さく唸って言葉を探す。




「うれすぃ言葉だけんども、オラはお前さんとそげな事は・・・なりたかねェなぁ。」
「それはどうしてだかベントン、お前には分かるのか?」

 何故と問われる事は想定していなかったのだろう。訝しげな顔をしたベントンに、シングは深いため息と共に一言、溢した。

「俺には俺の事がまだよく分からない・・・。」
「そげな風には見えねェけんども・・・?」

 きょとんとしているベントンの前で、シングは小さく首を振る。

「いや、お前にはお前が見えているさ。お前以外にもクラウスやロダーリ、みんな自分を知っている、するべき事が見えているんだろう。」

 そういう彼は空へと目を向けているが、その横顔は口元まで彼の金髪と日差しに隠され、表情は分からなかった。


「例えば・・・俺が今、目の前にいる男の主の命を狙ったら・・・」

 言いながらシングは立ててあった剣を取り、日差しの中にそれをかざした。そして、流し目でベントンを見やり、

「そいつは、それこそ迷う事無く俺を斬るんだろうな。」

すぐに視線を剣へと戻す。その剣は、刃先からつばにそって、鋭利な光を宿して煌めいた。





「なんたらしで・・・そげな事・・・」

 自分の言葉が、この優男を困らせるだろうとシングは予測していた。そして、肯定するだろう事も。
 否定出来る言葉であれば、そんなことはないと即座に彼は言う筈だ、と。

「どうした?何を悩む必要がある。騎士は誰かを守る者、お前が守るべきは主人だ。それで良いだろ・・・。」
 


 剣を収めるシングを、返事を見つけられぬまま黙して見つめるベントン。

 否定しなかった、出来なかった。それが全てだ。
 子供好きでお人好しな青年も、己に、先の試合の様に両手で剣を突き刺そうとした夜叉もまた・・・全て引っ括めて、ベントンなのだ。


 なら、俺は―――どれが本当の俺なのだろう?
 今こうしている自分も、知らぬ間に訪れる夜叉も、俺自身だと言い張れるだろうか―――





「・・・そういえば、まだ聞いていなかったな。ベントン、どうして騎士をやっているんだ?」
「オラが?」

 やや擦れた返事が返ってきたが、話題が変わった為か、先より声には張りが戻ってきている。

「ああ、これからも長い付き合いになる。同じ業同士だ、聞いておきたい。」

 ようやくいつもの明るさを取り戻したシングに、ベントンはふわりと微笑んで「そげな事なら茶にでもしながら話すべ」と町の方へと促した。




















「家族代々主家に仕えているのか。」

 それなら俺も似たようなものだ、案外騎士ってのはそんなものかもな、と答えると、相手が何処かキラキラとした眼差しを送ってきたので、シングは危うく手に取ったリンゴ菓子を取り落とす所だった。




 二人がいるのは丁度昼時で賑わっている町の中心部のオープンカフェである。ガヤガヤと騒がしいが、屋外である為、互いの声が聞き易く、なお且つ他の客の会話が気にならない環境になっていた。

 唯一の問題は両騎士が甘党だった事くらいだ。話の所々で、テーブルの中心の菓子へと手が伸びるのだが、籠には色んな味付けのものが用意されているにも関わらず、しょっちゅう手がぶつかるのである。
 大抵の場合はベントンが手を引いていくのだが、その頻度があまりに高い為、痺れを切らした(「何に?」「何かに!!」という天の声が聞こえそうだ)シングが、突如立ち上がって残りの甘い菓子をくれてやらんばかりの勢いでおしつけ、慌ててベントンも返そうとして立ち上がり、二人で周囲の視線が気になり座り込むという事があった。

 それで話が一度だけ中断してしまったが、甘味、フルーツ味・・・と消えていき、もはや二人の間で”クランへのお土産”としか考えられていない、最終的に残されたビターな菓子の哀れさを思えば、大した問題でもなさそうである。そう、おそらくは・・・。




「小さい頃から剣技を叩き込まれたな・・・まぁ、俺の場合主家に当たるものがあったかは知らないが・・・」

 幼かったしな、とシングは付け足す。実を言えば当時の事はよく覚えている筈なのだが、あの頃の彼は混乱の最中にあり、その記憶は今の彼にとっても触れれば痛む腫れ物の様なものだ。
 出来れば触れたくない、そう思って曖昧な説明しか出来なかったが、察してくれたのか、それとも単に気付かなかったのか、ベントンは深く聞いてはこずにただ頷いてその聞いていた。

「まぁ、あえて言うならシルヴァイクランが俺の主家だ。」

 どいつもこいつも、どっかネジが外れているからな、とシングは笑う。特にイーサンは常識的な非常識人だからな、と。本人が今頃くしゃみでもしていそうだが。
 変か?と聞けば、いんや、とベントンは首を振る。その大きな両手には小さなビスケットがちょん、と大事そうに一枚。彼の食べ物の持ち方については、もはや何も突っ込むまい、とシングはクラン交流会で出会ったその日に決めている。

「何かと心配ばかりしてくるんだが、こっちにも心配させろと思わせる事もあるしな。だから、俺は俺に出来る方法であいつらを守りたいんだ。」

 シングが紅茶を口に運んだ所で、

「・・・なァ、シんグ。さっきの話だけンども。」
 
 ベントンが思い返す様に言い出した。



「オラはやっぱり・・・シんグ、お前さんはお前さんの事さ、よぉーぐ知ってると思うダよ。」
「・・・・・・。」

 カチャ、と、カップと皿のぶつかる音がする。湖面の様に静かな銀の瞳が、無言でこちらを見ていた。そこに、怒りも喜びも無い。ただ、続きを促している、そんな様子だった。
 先の様に、何処か鋭い、そしてストイックなこの青年がまた理由を問うてくるのではないか、と内心ベントンは構えていたのだが、どうやらそのつもりは無いらしい。

「自分を知らねェ人間さんさ、人の事を顧みる事しねぇモンだけども、シんグはみんなの事よぉーぐ見てる。そげな人に対して聡ェ人が、自分の事が分からねェ訳ないダす。」
「・・・そうだろうか。」
「そうだも何も、答え出てっちゃ。」

 何が言いたいんだ、と少し怒った様なシングに、自分の方言で伝わらなかったかと、まるで見当違いの方向で焦り、急ぐ様にして言葉を紡ぐ。




 ―――今さっぎ、言ったでねェが。”皆を守りてェ”って





 

 豆鉄砲を食らった鳩の様、とはこの事だろう。
 眼を見開いたまま動かないシングの前で、一気に言いきった事で息をつくベントン。










 ―――自分は戦いたかったのだ、守るべきものを守る為に―――





「・・・そうか。そうだな、確かに答えは出ていた。」

 ふっと笑みを浮かべたかと思えば、そのまま肩を震わせ、シングは腹をあげて笑いだした。



「おぉおおおオラ、何か可笑しい事言ったべか?」
「可笑しいも何も・・・最高だ。」

 テーブルに突っ伏したまま、まだ笑いをこらえているシングに、自分がどこで笑いを取ったのかよく分からずに、困った様子のベントン。








 道は一本だったのに、どうして迷ったりしたのかという疑問。
 そして、目の前の霧を、簡単に晴らされた爽快さ。

 何故かその事全てが嬉しく、可笑しかった。


 何とか笑いを抑えようと、すっかり熱の冷めた紅茶を煽れば、まだ痙攣している横隔膜につられて、むせてしまう。




「丈夫てでか?」
「・・・ああ。」

 笑い疲れ、背中を擦られたまま、今度は落ち着いて紅茶を飲みほし、ふぅと一息つく。
 それを見て引いていこうとした肩を、おい、と、やや強引に引き寄せれば、互いの額がやや強くぶつかった。

 ・・・痛い。

 この美系と男前が額を突き合わせた図に、先ほどの大爆笑から様子を見ていたギャラリーから、何を勘違いしたのか黄色い悲鳴が上がったが、ベントンの方はぶつけた痛みで、それに気付くはずもない。




「もう一戦付き合え。今度は相打ち無しだ、完全に勝ってみせる。」

 まるで少年の様に無邪気に宣言し、手を離すシング。
 ベントンは未だ痛そうに額を擦っていたが、視界に出てきたシングの手に動きを止めた。



「今ならさっき以上に良い試合が出来る・・・・・・有難う、お前のお陰だ。いつかお前が迷う事があったら、今度は俺の力をかそう。」


 3秒ほど、差し出されたその手を見つめ、


「いんや、こちらこそ。」


ベントンはしっかりと握り返した―――













 同じカフェの違う席にて。


イ「しかしシングも臭いセリフを言いますね。」
ク「イー〇ン、覗きは人としてどうかと思うっス・・・」
ア「あら、あなたもわたくし達に同行している時点で共犯者・・・いいえ、運命共同体ですわ!」
ク「そんな・・・」
エ「私は・・・知らない。」

「・・・なるほど、土産を持っていく手間が省けたな。丸聞こえだぞお前ら。」

『あ。』











 終われ。


 

***** ***** ***** ***** *****




 後書きという名のなが~い言い訳


 如月殿、お待たせいたしました;!!


 前々から予定していた如月殿の所の子との交流小説です。
 キャラ崩壊が怖いからと何度も書き直して公開を延長していたくせに、いざ公開すると、勝手にお借りした子(シング君)の視点で書いて、且つキャラ崩壊させまくりなオチorz

 この陽、マイナス方向で期待を裏切りません!(蹴
 ・・・な、長らくお待たせした上にグダグダで申し訳ございません(ノω`);
 


 ここからは裏話でもない裏話。



 今回の小説を書く上で、如月殿にはシング君の色んな事をメールでお尋ね致しました。
 その中に「シング君がパラディンやっている理由」という物がありました。残念ながら自分の文才不足により、そこまで深い話には出来ませんでしたが;この小説の主題は1話を通してシング君が「自分とは何か」「存在意義」を問うものにしようと思っていたので、彼の思いや背負っているものが知りたくて、如月殿からお力添えを頂きました。


 パラディンって他のジョブに比べて、簡単な覚悟では出来ない職だと思うのです。(あ、他のジョブの子に覚悟が無いという訳ではありませんよ)
 アビリティにある、かばう、とか、守る、とか、浄化(FFTA2のみですが)とかとか。自他問わずに命そのものを背負って、必死で生きている感じがするのですよ。

 でも必死で生きている分、きっと悩みを言えないまま押し殺しているんじゃあないか、とか。
 彼らにだって心が折れそうな時くらいあるんじゃあなかろうか、とか。

 そんな事を思いながら書いていました。
 ただ、ひたすらシリアスでも肩が凝ってしまうので、相談役兼癒し系(?)として同じパラディンであるベントンを投下してみた所見事に撃沈しておりましたが(°∀°)ワー(



 
 今回はシング君が悩んでベントンが助け舟出していますが、最後の方の彼の言葉にある様に、いつか彼がうちのベントンを叱咤激励してくれるだろうと、勝手にその図を想像してニマニマしています(←





 さて、最後になりましたが、小説を書くにあたって、お忙しい中質問メールに応えて下さった如月殿、本当に有難うございました^^。返信メールの内容を生かし切れているか分かりませんが;楽しく読み切って頂けたら本望です!!

 これからのシルヴァイクランの活躍に期待して、乾杯!!d(・∀・)
 






 
 

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