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猫と大瑠璃~前編
***** ***** ***** ***** *****
銀夏の月、グラス港。
その港町の外れに、賑わいを見せる一つのテントが建っていた。
サーカス等に使われる大きさのそれは、外の光を遮断する為だろうか、外側は黒い布の上から、更に刺繍で装飾を施された数枚の大きな布で覆われている。
「・・・あれは?」
テントの入口から続く長蛇の列に、足を止めた者がいる。
一度は無視して二、三歩石畳の路を行きかけたその革靴は、やはりそちらが気になったか、そのまま列の最後尾へと向かった。
一番後ろに並んでいたのは幼い兄弟で、弟の方はテントの中に入るのをよほど心待ちにしていたか、はしゃぎ回って兄の周囲をぐるぐる駆け回っていたが、自身の上に伸びた影にはたと立ち止まって、その方向を見上げた。
少年の視界に入ってきたのは、茶色の革靴、青紫のコート、短い金髪、羽飾りのついた帽子―――
それらを纏った人物が、斜め後ろから差し込む逆光の中にスッと立っていた。その光景が、少年にスポットライトを思わせたらしい。
「お兄ちゃん、劇団の人?」
少年の問いかけに、青紫の人物がこちらを見下ろした。肩口から日光が差して来て、少年は思わず目を細める。
「劇団・・・?ああ、この格好のせいか。」
声変わりの途中だろうか、高いとも低いともつかない、どこか不安定な声が降って来た。
軽く笑った後、眩しそうに見つめてくる少年の為に、彼はその目線に合わせてしゃがんでやった。底が見えない様な、深く澄んだ碧の瞳が、少年を優しく見つめる。
「いや、俺は只のハンターだよ。青魔道士やっているから、こんな格好をしているけれどね。」
本物のハンターさんだ!と相手の肩に飛びついた弟を、こら、いきなり失礼だろうと兄が注意する。少年の勢いに引っくり返りそうになりつつ、兄を見上げてこれは演劇か何かかと問えば、肯定の返事が返ってきた。
「今日の劇ね、ハンターさんの話なんだよ!」
「こいつ、昨日の夜からこの事ばっかり話しているんです。」
キラキラした眼で少年が言う。呆れた様にいう兄の顔も、どこか嬉しそうだ。
その光景を微笑ましく思って見ていると、話の途中で悪いのだけれども、と、突然横から声がかかった。
「そこのハンターさん、チップ見せて欲しいにゃー。」
自分の事だろうか、と青魔道士が振り返れば、掌をぴっとこちらに差し出した、おそらくは劇団員がいた。テントのものに良く似た刺繍のポンチョを羽織っている。
歳は自身と同じくらいだろうか、と青魔道士は目星をつけた。瞳が大きいせいだろうか、顔立ちは大分幼く見えるが。
「チップ・・・ですか?」
童顔の劇団員は首を傾げる。
「もしかして、無いのきゃー?」
これには焦った。実を言えば、彼は列の後ろにいた兄弟が気になって立ち寄っただけで、演劇を見ていく気は無かったのだから。現に、今彼の手の中で所在無く弄ばれている羊皮紙は、これから向かおうとしていたクエストの仕事内容を書き留めたものだ。
「えっと・・・。」
嫌な汗をかきながら、硬直する青魔を兄弟達が不安げに見ている。
両者を見比べながら何事かを考えていた劇団員が、ふいにバク転で大きく後ろに飛びのいた。
そして、後頭部に身に付けていたらしい仮面を片手で顔面に下ろすと、腰の剣をスッと抜いて、空高く剣を掲げ、よく通る大きな声で叫んだ。
「我が名はコリグリム!」
そして、その剣をブンッと斜め下へと振り下ろし、
「世の安寧を乱す不届き者を討つ!!」
片手を腰にあて、高らかに宣言した。並んでいた客達が、一体何の騒ぎかとこちらを覗きこむ。
「へっ・・・?」
青魔が呆気にとられる中、コリグリムと名乗った劇団員は、そのまま彼の方へと突っ込んできた。
「なっ!?・・・・・・っ!!」
何かの冗談だと思っていたが、その剣の振りは明らかに腰を狙っていた。
咄嗟にタァンと高く跳躍し、低く払う様に入って来た攻撃をかわす。
脱げた羽付き帽子が、天空を舞い―――
「あら、やだもう。」
―――遠くからこっそりと、その様子を窺っていた人物の頭上にすっぽりと被さった。
「大丈夫ですか、団長。」
「大丈夫?は、相手の状況を見てから言うものよ。」
大きな羽付き帽を軽く持ち上げ視界を確保した彼は、ねえ、もうちょっと前で観戦しない?と、連れの武骨な手を引いた。
前方からの鋭い風を感じたのは、足の裏に地面を感じる直前。
「させるかっ!!」
青魔は着地と同時にサーベルを抜き、すぐにやってきた二撃目を受け止めた。
そのまま連続で斬り込んで来るコリグリムの一撃一撃を、後ろに下がりながら一つずつ受けては流していく。右足、左足、右足・・・二人の両の足が、目で追うのも辛い速度で入れ替わる。
―――両者が素早く向きを変える度、宙を舞う度に広がる衣装の影、地を蹴る度にまき上がる土と草、そして剣と靴、そして呼吸の奏でるリズム。
その一連の動作に、最初は恐々と互いの手を取っていた兄弟も、客達も、すっかり魅入られて動けずにいた。ただ、時の止まった中を、剣舞を見せる二人の方に歩み寄る者達を覗いて。
右下から左上へ、左から右へ、飛び上っては真下へ―――休む間もなく次がやって来る刃を流しながら、横からの攻撃を受け止めた時、青魔は相手の口元が微笑んでいるのを見、そして気付いた。
(そうか、これは魅せる為の戦いだ。)
彼が今まで経験したエンゲージの中で体得した、戦う人間としての身体の動きの一つ一つが、コリグリムによって集約し、突き、跳躍、防御といった形で、少しばかり大袈裟に引き出されていく。
実際の戦闘の様な泥臭い動きは省かれているが、同時に、それらを知った者でなければ生み出せない人体の躍動。
上がった体温と、陶酔に似た感覚の中で、青魔も剣を振るいながら前へとステップを踏み、相手にふふっと微笑みかけた。それを見たコリグリムの攻撃が激しさを増す。ただし、リズムは崩さない。
訳の分からないまま、がむしゃらに戦っていた筈の青魔は、いつの間にか相手の造り出した剣舞の中に取り込まれ、自ら彼に歩調を合わせ、共に舞っていた。
―――そうして、一体どれくらいの時が過ぎたのか。
キィンと互いの剣が跳ね返し合う音と共に、両者が間合いを取った所で、一人の男がスッとその間に割って入った。
「ブラボー!!!素敵な演目を有難う、グリムちゃん!」
観衆の中から突然現れた一人の男の歓声と拍手に、周囲に居た客達がハッとし、それから拍手、口笛の渦が巻き起こった。それを聞いたコリグリムが被っていた仮面を外して声の方を仰ぎ、軽く会釈する。そこでまた、歓声が上がった。
一方、突然の剣舞の終焉に、青魔の方は二、三度瞬きをしてそちらを向く。サーベルをまだ手に持ったまま、赤い顔で息を整えている彼は放心状態で、「お兄ちゃん、格好良かったよ!!」と手を振る兄弟に、「あ、ああ、有難う。」と返事を返すのがやっとである。
「さ、みんなー!入場開始、まだまだ本番はこれからよ!最後まで見てってね!!」
キャー!と無駄にテンションの高い男を、大人は遠巻きに、子供は面白がりながら親の手を引いてテントの中へと入っていく。
「団長、見てたのきゃー?」
大方客が劇場内に消えた所で、コリグリムが汗を拭って男の方を見た。その隣に体格の良いバンガの男がゆっくりと歩み寄る。
「最初から見てたわよー。場外でも、一演目出来るくらい上達したのね、感心よ。」
団長と呼ばれた男が、コリグリムの肩を叩いた。見た目も声も、中性的で、可愛らしい、という印象を受けるのは、口調と、その頭に堂々と乗っかっているリボンのせいだけではないと信じたい。
その可愛らしい団長が、ひっそりとサーベルを収めた青魔の方を見て、手をポンっと合わせた。
「貴方、グリムちゃんを本気にさせるなんて中々の子ね。しかも金髪碧眼?!・・・素敵ー!かーわいー!!もーやだぁ!どこかの王子様って感じ!!」
「・・・・・・。」
引き攣った笑みを浮かべながら、後ずさろうとする足を、”それは失礼だ”と言う心の声が必死で止める。
「にゃー・・・団長またかや。」
「団長、引かれていますよ。それにもうすぐ始まります。急いで下さい。」
呆れ顔のコリグリム。バンガの男も、渋い顔をして諭した。
「すぐ戻るわ。全く、マコちゃんったらぁ、本当の事を言って何が悪いのよぉ。はい、これ。貴方の帽子でしょ?」
差し出された青紫の羽付き帽子は確かに自分の物だった。恐る恐る受け取る青魔道士。
「・・・有難うございます。」
「いいえ、こちらこそ。私も即席で青魔道士楽しめたしね!」
「は、はぁ・・・それは良かったです・・・。」
ふふ、ハンターさんなのに意外と礼儀正しいのね、と団長の男はきゃっきゃと笑い、そしてふと年相応な穏やかな笑みを浮かべ、碧の瞳を覗きこんで一言―――
―――もしかしたら、本物の貴族様だったりして―――
唾を飲み込もうとした喉が、乾いた音を小さく立てて鳴った。男の笑みが、深くなる―――
「だーんーちょー、お客様をフリーズさせるのはもう止めて欲しいにゃー。」
見かねたコリグリムが、腕組をして言う。
「もうー、冗談よ、じょ・う・だ・ん!!ムキにならないでちょうだい。」
じゃ、私はこれで!とヒラヒラ手を振って戻っていく団長と、「マコちゃん」を目で追っていると、同じく彼らを見送っていたコリグリムが、つつつっと寄って来た。
「・・・。」
「みゃー。」
「・・・。」
「みゃー。」
「・・・・・・。」
「おい、気付け。」
「あ、」
つんつん、と頬を突かれ正気に戻る。
「うちの団長はお茶目さんなんだにゃー、少し多めに見てやって欲しいきゃーも。」
「そう・・・。そうなんだ・・・。」
だが、と青魔は思った。
あの男は、確かに自分の中の何かを見通そうとしていた。握りしめた拳に、力を込める。
「おみゃー、名前なんて言うきゃー?」
振り返ると、アーモンド型の瞳が、じぃっと自分を見ていた。先の時と違い、この眼には特に恐れを抱かなかった。この男には、その意図が無いからかも知れない。
俺?と、青魔は少しばかり迷った様子を見せたが、
「エヴェレットです。」
答えない理由も特になかったので、名乗った。
・・・が。
「アヴァレットかや?」
「エヴェレット。」
「エヴォレッタ?」
「エヴェレット、ですよ。」
そんなに発音しにくい名前だっただろうか。舌を噛みそうになりながら四苦八苦する様に、忘れようとしていた記憶の中の人物が思い起こされて、エヴェレットは首を振った。
「随分面倒くさい名前付ける親もいたもんだがや。顔見てみたいにゃー。」
「つけたのは俺ですが・・・。」
しかめっ面が、ポカンとした表情に変わる。こんなにころころ表情を変える男が、本当にあの剣舞の相手だったのだろうか。
「自分で?あ、もしかして芸名きゃー?」
「ハンターなので芸名ではないですが・・・まぁ、そんな所ですね。」
成程、成程、とコリグリムが頭を縦に振る。どことなく軽い振り方で、ちゃんと納得しているのかは怪しい所だ。
「じゃ、エヴォラッタ、さっき相手になってくれた礼にこれやるにゃー。」
ほいっと投げて寄こされたそれを見て、エヴェレットが困惑する。
「これ・・・チップじゃ、」
「わいの小遣いで私的に買ったもんだぎゃ。」
じゃ、一緒に見に行くにゃ~と手を引くコリグリムに、一つの疑問をぶつける。
「君は劇に出ないの?」
「今回の劇はわいの練習中の動きがあって、裏方やってるにゃー。」
一体、どんな構造になっているのだろう、道らしき部分が時々チラチラを青い燐光を蛍の様に放つ。暗いテント内をどんどん下に降りて行っている様だが、まだ目が闇に慣れていないので、その光だけでは分からない。
「そ、そう。」
「でも、内容を隣で説明するくらいなら出来るにゃあ。」
コリグリムが振り返って嬉しそうに笑い、厚い布で出来た入り口に手をかけた。
―――スイッと開かれたその観客席の向こう側から飛び込んできたのは、稲光と豪雨、そして本物と見間違わんばかりの、古い戦場。
息を呑むエヴェレットの背を押し、コリグリムが肩越しに囁く。
「ようこそ、劇団Irisへ。ゆっくり見て行って欲しいんだなも。」
***** ***** ***** ***** *****
コリグリム、エヴェレット、共に当時14歳。後編からエヴェレットの仮面ライフスタート。
※オオルリ:色・声共に美しいスズメの仲間の小鳥。夏の渡り鳥。
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”ちまき”(TA)
∟所属ユニット
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”劇団Iris”(A-2)
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・設定まとめ
”ちまき”(TA)
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”劇団Iris”(A-2)
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