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小麦畑に雨は降る


***** ***** ***** ***** *****

 


「ガキにしちゃよく粘った方じゃねーか。」

 小馬鹿にする言葉に、地に伏したまま歯を食い縛る。
 日も落ちた山道に、倒れている兵士らしき影が一つ、取り囲む影は六つ。


「悪くない剣だったが、運が無かったな。」

 血と泥で利かなくなっている視界に、暗い影が落ちた―――と、同時に既に痛めていた脇腹に鈍痛が走り、悲鳴が漏れる。うつ伏せになっていた所を、仰向けに蹴り転がされたのだ。
 腰についていた僅かな重みが、シャリッという音と同時に消える。頂いて行くぜ、という声に、金貨が奪われたのだと悟るものの、それを取り返す程の力は、既に残っていなかった。



 ―――取られたのが金だけで済んだのだ、諦めはつく

 遠ざかる足音を聞きながら、負け惜しみにも似た思考を、延々と繰り返す。
 それにしても寒いな、血でも流し過ぎたか?そんなに怪我はしていない筈だが

 ぽたり、と見えぬ上空から滴が目尻に落ちた。街に居る時から、晴れているのにどことなく雲行きが怪しいとは思っていたが、ついに降ってきたか。しかし、何もそんな誤解される様な所に降らなくても良いだろうに。誰にも見られる事の無い恥への、これまた無用な心配をする自分に、小さな苦笑を浮かべる。

 一滴を皮切りに、次々と降り出した冷たい雨の中、物を考えるのも次第に億劫になっていき、少年は目を閉じた。
その冷たさが傷の痛みを紛らわすのを、唯一つの救いとして。








「こいつは降るな…。」

 これから起こるであろう面倒臭い過程に、狩人の少年は鉛色の重い空を見上げて一人ごちた。
 彼が通る度丹念に踏み固め、枝切りをして作り上げた道からは、既にじっとりと肌につく様な、生温い水の香りが漂っている。本当はもっと早く仕事を切り上げて帰る予定だったのだが、狙っていた獲物は予想外に大きく、毛皮と肉に解体した後もかなりの量があった。

 世話になっている料理店の依頼でなければ、必要量だけ頂いて、後は山に返している所だったが、今回は規定量を持ち帰る必要がある。
 麻袋の重みに、ため息が零れた。このまま降られれば、ぬかるんだ道に足を取られるばかりではなく、最悪体温を奪われて動けなくなる。すぐに暖を取れる街中とは異なり、山のそれは時として命取りになる事も、少年は熟知していた。


 表の山道を通り街道に抜ければ…賊が出る危険はあるが早いか。


 血抜きをし、胡椒を振り掛けて紙で巻いたとはいえ、加熱した場合に比べれば長持ちはしない。魔法で凍らせれば更にもつのだろうが、彼はそちらの知識に関してはあまり明るくはなかった。それに近場なら凍らせずにこのままで運びたい―――これは単に少年の山の幸への味の拘りだが。

 下がってきた麻袋と弓を背負い直し、彼は山道へと歩を進めた。












 ―――い、―――ぶか?


 声が落ちてくる。
 その方向に頭を動かそうとした。が、己の体なのに全く言う事を聞く気配が無い。


 さむい。


 背中から抱え上げられる、その腕の温もりにようやく息を潜めていた感覚が蘇ってきた。他は全く動かせないから、せめてその感覚だけを必死に口にする。上手く声になったかは疑問だが。
 腕や足に縛られる様な圧迫感を感じた、恐らく止血の処理でもしてくれているのだろう。勝手に鳴り始めた歯の音を、意外と五月蠅かったんだな、等とどこか遠くでぼんやりと思っていると、すぐ近くで何かを下ろした音がした。

 他にも誰か居るのか、どうやら会話しているらしいくぐもった雑音を聞きとろうとするが、残念ながら水の入った耳では不快に反響して頭に響く上、声として聞きとれない―――






「すぐ助けてやる、待ってろ。」

 凍えながら足元で呻く影を宥め、雨に濡れた前髪をかき上げて、抜き身のナイフを手に、遠くに立っている賊らしき男を見やる。ここら辺を塒にしている連中の、斥候か何かだろう。

 山道を抜けようとして、こいつらにやられた、か…。

 ここでこの怪我人を見捨てて逃げれば、恐らく彼らは追って来ない。だが、助ければ同じ様に襲われるだろう。
 妙に人を見る目だけはある奴らである。賊の犠牲者を助ける人物は、正義感の強い者も多い、と。屠らずにおけば、治安局に必ず告げ口するだろうと踏んでいるのだ。


 ま、穏やかに済ます手はあるがな。


 立ち上がって、背負っていた今日の成果を降ろす。口元で依頼主である朗らかな夫婦にすまんと小さく詫びて、少年は麻袋を男の方に放った。
 泥を跳ね上げて、丁度両者の間程に落ちたそれを、用心深く近寄ってきた男が拾い上げ、中身を確認する。それからこちらを見上げ、ナイフを鞘に戻した。
 敵意の消失の合図、すなわち、交渉成立である。


 男は頷いて、山道をかけ去った。それを見送ってすぐに、鞄から白い布と紐を取り出した。





 獣道の様な脇道から通りに出てすぐに、負傷した―――傷だらけだが、恐らくソルジャー―――を見つけた。駆け寄ってみれば、量は少ないものの出血も見られた。傷は切り傷と打撲だ。街に運ぶまでにどれだけの体力が奪われるかを考えれば、ここである程度処置した方が良いだろう。

 せっかくの獲物を賊に渡してやる事になったのは惜しい事態であるが、人一人の命と、クランの信用、前者の方がずっと重い。
 全身の止血処理を終わらせ、怪我人の纏っていたマントを一度外し、きつく絞った。今度はそれを、持ち主の負傷した右肩から、傷を負ってない左腕の脇の下を潜らせ、覆ってやり、その上から手当の為に外した革鎧を再び着せて固定する。
 それから、慎重にソルジャーを背負った。弓のハンドル部分を両手で持ち、その間に座らせる様にして安定させた。多少不格好ではあるが、体がぶれない様に背負ってやれるという点で、得物が丈夫な剛弓だったのは良かったのかも知れない。ソルジャーが思ったよりも小柄だったのも救いだ。
 自由にしておいた左腕を自身の肩に回してやれば、弱々しく震える白い手先が、必死に服を掴んでくる。



 宿に着くまで、堪えてくれ。

 顔を流れ落ちる雨を振り払いながら、彼は怪我人連れに許容されるまでの速度の中で、足を街道へと急がせた。













 バチン、と火の爆ぜる音に打たれる様にして目が覚めた。
 視界に映る木製の天井と、そこに揺らぐ橙のかかった光に、ここがどこかの室内である事を知る。

「起きたか。」

 暖炉に燃える炎の音の向こうで少し聞き取り辛い、低く穏やかな声に、頭を向ける―――今度は動かせた、という感覚と同時に、自分の身に何が起きたのかを全て思い出した。

 何か書いている所だったらしき声の主が、筆を止めてこちらを見ている。背後に濡れた服が干してある所を見ると、彼が助けてくれたのだろうか。
 光が片側にだけ当たっている顔は目も輪郭も細目で、ややきつさを感じさせる風貌だ。照らされている髪の色は、収穫前の小麦畑を思わせたが、それら抱いた感想のどれであっても、本人に伝えれば取りようによっては失礼かも知れない上、言う必要も無いものばかりだったので、黙って見返す。

 その視線を怪訝に思ったか、椅子を軋ませて立ち上がり“小麦畑”はこちらに近付いてきた。



「…口はきけるか。」

 暖炉の赤をちらちらと躍らせながら、深い青の双眸が見下ろしている。
 近くで見れば、顔は遠目に見た時よりもずっと若く見えた。未だ声変わりを迎えていない自分と比べ、ずっと低い声と雰囲気から年上かとも思ったが、恐らく自分とほぼ変わらない年頃だろう。その同世代の男に、賊に襲われた所を救われ、怪我の手当てまで施され、その背で運ばれた…そう考えた途端、先立って浮かんできた感謝の気持ちとは全く間逆の、情けない様な、苛立った様な、己でもよく分からない尖った気持ちが顔を覗かせる。

 彼が、まるで負けを二度も味わった様なその感情を、同世代に対する競争意識であると自覚するには、年齢も余裕もまだ足りない。


「…ああ。」

 抱いた気持ちそのままの、苛立った不機嫌な声が出た。

「どうした、まだ具合でも悪いのか。」

 正直な所、具合が悪いのは体ではなく相手の存在なのだが、助けられた恩もある手前、放っておいてくれ、とも言えない。合わせられた視線を逸らし、雨の打ちつける窓に向かって一度、ゆっくりと瞬くと、先の言葉への否定の意として受け取って貰えたのか、どこかほっとした様なため息が聞こえた。

 素直になれない申し訳無さに、ちくりと心が痛んだ。



「深手は大方白魔道士が治した、他の傷も二、三日すれば塞がる筈だ。」

 もそり、と体ごと窓の方を向いてしまったものの、こちらの事はしっかり聞いているであろう背中に、淡々と説明を投げる。
 山道で見つけた事、自分の素性―――とは言ってもクランに属している狩人である、とだけだが―――、今居るのがシリルのパブの二階にある酒場の一室である事。
 

「そう言えば、あの道を歩いていたのはお前一人か?仲間は?…それから、拠点があれば教えてくれ。ここで預かっている事を知らせねばならん。」
「…私一人だ。仲間は連れていない…一人で旅をしている所だ、拠点も特には無い……危ない所を救ってくれた事、感謝する。」

 初めて耳にした少年兵の声は、よく通る声変わり前のものだ。止血した際に年齢が近い事には気付いていたが、寝台に寝かせる時に改めて見た顔がかなりの童顔だったので、声が高めでも、あまり違和感は覚えなかった。
 私、という人称と口調から、どこかのお坊ちゃんかと目星をつける。

「ああ…当然の事をしただけだ、礼は要らん。…まだ名を聞いてなかったな。」

 ふいに、小柄な背中がビクっと反応したのが見えた。
 揺さぶりをかけるつもりは無かったが、聞かれるのを恐れていた質問だとすれば、訳有りかも知れない。現に彼は一人旅だと言った。日の落ちた後の山道を一人で歩くなど、旅人にしては不慣れな行動も何か臭う。そして相手は今も、名を答えるのを拒むかの様に窓を見つめたままだ。
 色々と憶測が浮かんだが、まずは事を事務的に進めるべきだ。幸い、こちらもあまりセカンドネームやミドルネームを聞かれたくない点で条件は同じである。

 助け船を出してやろう、非常に不本意な形だが。


「これから数日預かるんだ、ファーストネームだけでも聞かないと色々と不便なんでな……俺はエメットだ、下の名前は聞いてくれるなよ?」
「……何故だ。」

 何がそんなに気に喰わなかったのか、先からずっと反対側を向いていた頭が、ようやくこちらを向いた。
 丸い勝気な瞳の中には、隠しきれない好奇心が浮かんでいる。秘密にされると気になる性分の様だ。

「答えよ、何故名前を聞いてはならぬのだ。」
「そのお言葉、そっくりそのままお返し申し上げる。」

 苛立った敬語混じりの声に、何を感じ取ったか、少年兵は目を泳がせ、怯えた様に口を噤む。それからほんの少し間をおいて、ウィル、と呟いた。

「ウィルフォードか?」
「ウィリアムだ。面倒だから、ウィルで構わぬ。」
「…では、ウィル。」

 本人に悪気は無いのだろうが、歳の近い奴から、まして助けてやった奴から、何につけても配下の兵士に話しかける様な口調で言われては、腹立たしい事この上無い。
 ほんの些細な事なのに、一度気にしてしまうともう引っ掛かって離れなかった。



「食事は薬を含めて朝七時、昼一時、夜六時に持って“きてやる”から起きて待っている様に。眠っていたらやらんからそのつもりで。」
「…っ!!」

 腕組みしてこれ見よがしに見下げてやれば、ウィリアムも負けじと睨みつけてくる。
 その負けん気さに、エメットの中の何かが切れた―――なんだ、その顔は―――それまでのクラン生活の中では、あまり抱いた事の無い、激昂。


 …この恩知らず。刃向えるものなら、やってみろ。




「それと、どこの貴族の子供かは知らんが、その偉そうな喋り方を止めろ。こちらは貴様を助ける為に今日一日山を駆け回って手にした報酬を賊にくれてやったんだ。依頼主に頭も下げてな!!」


 傍のサイドテーブルを拳で思い切り殴りつける。一歩間違えれば、同じ一撃が目の前の顔に飛んでいた所だ。

 少年が巻いているその包帯を用意してくれたのは、他でもない、己が依頼を蹴る羽目になった料理店の夫婦だ。
 血の流れた人間として当たり前の行動を、仕事に失敗した言い訳には出来ない。別々の所で負った責任を、あくまで別々に処理しようとするエメットの性分は、夫婦の好意を貸しの上乗せとして背負いこんでしまった。

 ここで私情を持ち出すなど大人気ない、と普段の彼なら思い止まっただろう。自分が助けたいから助けたのだ、分かっている。その手段として依頼を破棄したのは自分の判断で、この少年のせいではない。
 それなのに、この時は違った。流れ出した怒りが、止められない。

 自分とて、エンゲージを重ねてきた身だ。賊の存在に気付いたらすぐに茂みに分け行って、一人一人捌く事も出来た。護る命が自分一人のものだけなら。

 お前が、お前があんな所で倒れてさえいなければ。


「俺は貴様の兵士でも何でもないんだ、同等の目線と態度で物を言え。あの時もっとひ弱そうな奴も居たとして、貴様一人狙い撃ちされたとしたら、大方その喋り方と、一人夜の山道に突っ込んだ馬鹿な判断のせいだ。」

 それまで黙ってきた感情を全て、これでもかと投げつける。
 反論は無い。それはそうだ、間違えた事は何一つ言ってないのだから。






「…そうだな、私が馬鹿だった。だが口に関しては他を知らぬ、許してくれ。」
「…っ!!」


 言い過ぎたか、と後悔したのは、俯いた相手が、包帯が巻かれたままの、まだ痛々しい右手で、ぐっと布団を握り締めたのを見てからだ。常に相手の長所短所を無意識に測っている頭は、一度血が上ると容赦が無い。

 ―――貴方の言葉は、いつも正しい。けれど、言われた方はどこにも逃げ場が無いのですよね

 マッケンローに苦笑交じりに指摘されたのは、一体いつだったか。


「…いや。」

 こちらこそ済まなかった、という代わりに出てきたのは、俺に謝る事ではない、という不器用な言葉だけだった。





 ―――言葉の雨が、荒んだ心にどこまでも突き刺さっていく。
 こんなつもりでは無かったのに、下らないプライドが妥協を許さない。

 だが。
 握り締めた手の甲の包帯に、ぽつりと広がった染みが涙であると自覚した時、尖っていた感情が、しんとした哀しみに変わっていった。自分は無知だ、この目の前の同じ年頃の少年にすら呆れられる程に。

 “外”の子供は、自分達がしっかり管理し護ってやるものだ、と言った父。その父親の民への横柄さに反発して外に出れば、彼らは護られるどころか、己の足で自分の遥か前を歩いている。
 不遜な奴だと指摘されて、それこそ目を塞ぎたくなる程に思い知らされた。自分は己が嫌っている父と何ら変わらない態度を、相手に向けてきたのか。


「…私は、酷く世間知らずな様だ。」

 エメットは暫く間をおいた後、「ああ、そうだな。」と静かに、だが正直に返してきた。今さっき真っ向からぶつかり合ってへし折られたばかりだ、無言で肯定を返されるより気は楽である。もしかしたらそうする事で、彼なりに気を使ったのかも知れない。

「…否定はしないのだな。」

 自嘲を交え、いじけた態で返してみる。

「事実だからな………だが、悔しかったのだろう?」

 不思議そうに見上げるウィリアムを一瞥してすぐに顔を逸らし、助けた時泣いていた、と一言。
 頬に熱が噴き上げてくるのが自分でもよく分かる。ウィリアムは俯いた。

「あれは…違う。雨で濡れただけだ。」

 情けなく凹んだ声が、逆に肯定している。しかし、エメットはそうか、と返しただけでそれきり何も言おうとはしなかった。
 何か、何か言わなくては気まずさの中に取り残されてしまう。

「そなたは、」
「『お前』を使え、深く詮索する気は無いが、素性を隠すつもりならな。…なんだ?」

 まるでこちらが喋るのを待ち構えていた様に即答され、先を促された事に、何故か少し安堵する。

「お前は、お前ならどう山道を越えた。」

 エメットが、やや驚いた様な顔をしてこちらを見た。そしてすぐに、そうだな…と答えを探る様に上を見上げ、再び視線をウィリアムへと戻す。その目の端が赤い事への気まずさから、ほんの少し彼の顔から横にずらして。

「一晩もかかる様な道なら夜は避ける。賊だけじゃない、野獣も、変わり易い山の気候も油断ならん相手だからな。」
「確かに…夕暮れまでは晴れていたのに…。」
「暑かったろう?」

 首を傾げるウィリアムに、日中だ、と付け足す。

「そうだな、春先にしては少し…。」
「雨が降ったのはそのせいだ、山は水を溜め込むから、熱されればそいつが雲になって、下手すりゃ雷雨になる。足元の暗い夜ならなおさら悲惨だ。だから、暑い日の夜の山道は…初めてなら俺なら行かない。」
「急ぎの用なら?」
「行商人の集団でも捕まえて、一緒について行けばいい。武装しているなら護衛としてついて行っても良いしな……急ぎだったのか?」
「…。」


 ウィリアムが口を引き結んだかと思うと、ややあってぽつりと零した。

「訳あって家を出た。急いでいたのは、宮廷付のジャッジを見かけたから…詳しい理由は明日話す…今は少し寝かせてくれるか。」

 もそり、と頭まで被った布団に口元を埋めて目を伏せた童顔は、演技だとしてもあまり眠そうには見えない。
時間をくれと言う事だろう。

「ああ、長く喋らせて済まなかったな…。」

 後で別の奴が様子を見に来るから、しっかり休むと良い。
 逃げる様に閉めた扉に背を預けた。


 それから、廊下のランプをただぼんやりと眺めて。

「馬鹿は、どっちだ…。」

 囁いて自嘲する。身を襲ってきたのは、体を動かした後とは別の倦怠感。





「何湿気た面してんのよ。」

 聞き慣れた声に振り返れば、やはり顔馴染みの姿である。

「…なんだカロリーヌか。」
「ちょ、何よそれ。美人が雨に濡れて帰ってきているのに第一声がそれ!?色気無さ過ぎじゃない?」

 それよりさ、例の可愛い子起きた?ね、起きた?としつこく訊ねてくるカロリーヌを下らん、と一蹴して、宛がわれた部屋に下がろうとすれば、行く手を阻むように突き出された袋が一つ。

「どーせ食事も忘れて傍についてたんだろうと思って。差し入れ買ってきてやったんだから感謝なさい。」
「要らん。」
「遠慮しなくても、代金はあんたが忘れた頃にしっかり請求してやるから安心して。ほら。」


 弁当が入っているらしい包みを、無理やり手に持たされる。
 ―――正直、食べる気分にはなれなかったが。


「…済まん。」
「いーのよ、ただ飯食らいになっただとか、うじうじされるより無理やり口にねじ込んでやった方がこっちも気が楽だから。」
「……。」
「何その顔、もしかして自覚無かったの?結構分かり易いのよ、あんた。」

 顰め面で袋を見ているエメットの背を、ほら廊下で食べる気?と小突く様に押してやる。
 その姿が奥に消えた所で、角に身を潜めていたマッケンローが顔を覗かせた。

「あの様子じゃ、早速喧嘩した様ですね。」
「そーねー。まぁ、あのびみょーなお年頃で今まで無かった事の方がびっくりだけど。」

 傍の部屋で休んでいる存在に気遣ってか、小声で語りかけてくる彼に肩を竦めて同意する。

 ―――エメットが部屋の外まで怒声を響かせる事など、カロリーヌの知る限り、これまで無かった。




「大人の中で生き過ぎたんですよ、あの子。」

 年上のクランメンバーに囲まれ、本人も気付かない内、背伸びして過ごす事が当たり前になっていた中で、突如現れた同世代の存在。平静を装っている様で、傍から見れば不自然な程に、彼は戸惑っている。

「プラスの刺激になるんじゃないですかね。言動が老け過ぎていたきらいが有りますし。歳不相応症候群とでも言いますか…?」
「良い歳してかくれんぼするおっさんに言われたんじゃ、エメットも不幸よね~。」
「空気読んだんですよ、空気。それより声のトーン落として下さい。」
「はいはい、私もお腹空いたからちょっと下行ってくるね。」

 不服そうなン・モゥの抗議を軽く流して、カロリーヌはパブに降りて行った。








 ―――暖炉の光に照らされるだけの薄暗い床に、光の帯が伸びて、消えた

 皿にナイフが当たる音、人々の騒ぎ声。寝台につけた左耳が床越しに、1階のパブの喧騒を拾いあげる。
 世間知らずである事も、それが故に危険な目に遭う事も。そうだ、静かな城壁の内側に護られていては見えなかった世界を知り受け止める為に、この喧騒の中に飛び込むと決めたのだから。

 また、子供染みた決意だと言われるかも知れない。それでも明日は話そう、全てを。
 丁寧に巻かれた右腕の包帯に触れれば、常にこちらを見通している様な細い青の双眸が思い出されて。

 割と人は見た目によるものだな…


「面白くない。」

 否定するべき所であっさり頷きおって。だが、不思議と心は晴れやかだ。
 仄かな腕の痛みと共に、そっと意識を手放した。










***** ***** ***** ***** *****
 


 
 方や柔軟でへらへら構えていて、方や頭がガッチガチ。
 方や流行に敏感でお洒落さん、方や時代に置いていかれようが全く気にしてない男。
 方や自分の感情にストレート、方や自分の意見にストレート。

 でも実は二人とも気が強くて一本気。後者の方は普段隠されてますが。
 前々から書こう書こうと思って年単位で先延ばしにしてしまっていた、そんなライバル二人の出会いの話です。

 ちなみに、ワイリーは実際にゲーム上で加入してきた時もソルジャーでした。

 表向きは出会った当初からぶつかり合ったままでいても、この時と比べたら内面では互いを認め合える様になったんだぜ、という成長が…見えねぇな。あれおかしいな((




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