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Flip,flip(1)

***** ***** ***** ***** *****

 


「じゃあミュート、また後でね!!」
「うん!」
 
 マーシュに一時の別れを告げ、ミュートは家に走る。

 St.イヴァリース、12月半ば。そう、“世界が元に戻った日”から、もう一年の時が流れていた。
 道は違えど、共に異世界を渡り歩いた三人組は、今は少しずつその関係を変えている。あれ以来、ミュートはマーシュと過ごす事が多くなっていた。クラスが変わってからは、学校で話す機会は減っているものの、生来少し内気なミュートにとって、マーシュは、腹を割って何でも話せる貴重な親友となっていた。今日もこれから、自宅に荷物を置いたら、彼の家に遊びに行くところだ。以前よりも外交的になり、友人も増えたミュートだが、あの時の思い出を共有出来るのは、やはり彼とリッツだけであった。

 そのリッツは、女の子友達と一緒に居る事が多く、一年前程一緒に居る事は無くなってきている。距離を置かれている、という感覚ではあったが、不思議と不愉快ではなかった。彼女だけではなく、同級生の女の子達が、自分達男子全体に対してそうであったし、クラスの男子からは、彼女達が聞いたら眉を顰めそうな“えっちな”話が聞えてくる事もちらほらあったからだ。ミュートには詳しくは分からなかったが、多分、リッツも他の女の子達も、同性で集まる事で、誰々が誰某に気があるのだ、といった噂が立つ事から身を守っているんだと、何となくそう察している。

 学校が終われば、友達と遊んだり、大好きな本を読んだり…そうだ、最近では父と一緒に外食に行く事だってある。
 長い長い夢を見ていたあの頃の様なスケールの大きさは無いけれど、夢も冒険もそこら中に散らばっていて、それを一つ一つ掬い取って、皆が生きている。
 
 そんな、ごくありふれた生活に戻った―――そしてそれに慣れた頃に限って、“非日常”は降って来るものである。そう、文字通り―――
 
















 それは、ミュートが近道をしようと、細い路地に入った時だった。
 
「ちょ、そこをどけぇええ!!」
「わ!!?」
 
 上からの風圧に、ミュートは咄嗟にしゃがむ。
 その直後、隣で派手にポリバケツが倒れる音、犬の鳴き声、そして
 
「いってぇー…どけっつったのに座る馬鹿がどこに居んだよ。」
 
と恨みがましい声が聞こえてきた。
 
「ご、ごめんなさい!怪我はない……ぇ?」
 
 続く筈の言葉は、途中で掻き消えた。


 相手はどうやら自分を咄嗟に避け、何とか受け身に成功したもののゴミ箱に突っ込んだらしい。
 後頭部を抑えながら立ち上がる、その少年は―――
 
 軽装の上に緑のマントを羽織り、腰にはベルトと、サバイバル用にしても明らかに大きな短刀を下げた

――― 一年前まで見慣れていた“あちらの世界”の住人だった。ジョブは…シーフか。
 
 現実離れしたその姿は、まるで誰かが、彼だけあちらのイヴァリースから、もしくはあの“魔法の本”から切り取って、ミュートの網膜に貼り付けた様で、そこだけ、周囲と輝きが、風が、香りが違う様な…不思議で、滑稽で、そして…堂々と違和感を纏っているのに、何処か懐かしい。

 自分はまた、夢を見させられているのだろうか。

 
「怪我?ねーわけねーだろ?あーあ、コブできちまったよ…お前、うるせーな。」
 
 ただ、その現実と不協和音を奏でている少年が、頭を擦りながら犬を軽く蹴った音と、犬がキャインと悲鳴を上げて逃げた音だけは、妙に現実味を帯びていた。
 たく、どーなってやがる、と罵って振り返る瞳が、ミュートを捉えて大きくなる。ミュートもまた、その少年の顔には見覚えがあった。いや、霧がかかった様に忘れかけていたのを、今この瞬間に思い出したというべきか。
 
「おま…ミュート………王子か?!」
 
 王子、と自分を呼ぶ声が、ミュートの中でいつの間にか、懐かしいンモゥ族の青年の声に変わり、反復した。
 
「そうだよ?僕はミュート…でも、今は王子じゃない。」
 
 混乱する頭の中でも、これだけは、はっきりさせておかねばならない、とミュートは断言した。彼が、あちらのイヴァリースの住人であるなら尚更だ。
 彼が王子であるのは、バブズの前でだけ。それが、彼との別れ際の約束だから。
 
「君は、マーシュと一緒に居た人?」
 
 そう、ミュートはこの少年に何度か会っている。それを意識した刹那、向こうでの記憶が堰を切ったように押し寄せてきた。




 最初は、偽りの過去の中。自分より数年年上である彼は、ジャッジマスターであった父が、懇意にしていた部下、エクセデスの跡取り息子だった筈だ。何度か、挨拶だけ交わした事があった。最も、自ら創り上げた過去の中とは言え、ミュートも幼かった為、どんな顔であったかまでは覚えていなかった。

 だから、一斉調査で、マーシュを捕えた時、彼が他の仲間と共に城門まで殴りこみに来て、兵士に押し出されて行く光景を窓から見ていた時も、過去に会った事のある人物だとは気付かなかった。ただ、引き摺られながら歯を食い縛り、真っ直ぐこちらを睨みつけて、拳を振り上げられた時、何故ここに居ると分かったのだろう、と不安に感じた事ははっきり覚えている。

 最後は、マーシュと共に、母に、そして王子としての自分に…止めを刺してくれたあの時か。
 



 本来、王家側であった筈のエクセデス家の彼が、どういう経緯でマーシュの仲間になり、どんな人物だったのかは、こちらに帰ってきてから、マーシュの口から知った話。
 
 最後の最後に和解したとは言え、この少年と自分との歴史は、あまり良い思い出があるとはいえないな、とミュートは思った。それは、少年も同じらしく。
 
「だとしたら、何だよ。」
 
 つっけんどんに返された。濃い茶色の眼には、警戒の色。当たり前かも知れない。
 
「その…あの時は、ごめん。あと、有難う。」
 
 彼らには、言う機会も無いままだった言葉だ。シーフの少年は、まるで耳慣れない言葉を聞いた様に、ぽかんとしている。
 が、その顔はすぐに険しくなった。ミュートに対してではない。それを見たミュートも、今まで失念していた、ある可能性に気付く。
 



 裏口に迫ってくる気配―――まずい
 
「こっち!!」
 
 咄嗟に、少年の手をとった。
 
「お、おい!?」
 
 制止する声は、とりあえず無視して、路地の角を曲がる。
 同時に、背中からドア、恐らく、あの裏口を蹴り飛ばした音が聞こえた。
 
「くぉぉらぁああ!!出入り口を散らけた悪がきはどこじゃああ!!」
 
 運の悪い事に、シーフが華麗に着地――する筈だったが、ミュートのお陰で――失敗した所は、ご近所でも有名な、子供嫌いのシェフが営業している、レストランの裏口だったのだ。

「何であいつ、あれだけであんなブチ切れてんだよ!!」
「それは後で!走って!!」

 子供嫌いにも彼なりの理由があり、ミュートも大いに納得出来るものなのだが、今はそれをシーフに説明している暇は無い。
 そういえば―――と、シーフの手を引き、これまでに無かった程の全力疾走をしながら、ミュートは考えた。
 
 何故彼は上から降ってきたのだろう―――等と
 自分の時は、どうだったのか

 自分の時…?―――なら、彼はまさか



 
「裏口が出入り口だって?!おっさん料理人ーーー?まぁじ!?本当に繁盛してんのかよ!!!」
「わわわ、止めてよ!!どういうつもり!!?」
 
 …考えている場合では、残念ながらなくなった。
 案の定、シーフの挑発を聞きつけ激昂したシェフは、フライパンを片手に追いかけてくる。一方涼しい顔で走り続け、横目で連立する建物を見ながら、何やら思案顔だったシーフは、次の瞬間、いかにも「良い事を思いついた」顔をして、ミュートを見た。
 
「どういうって…そりゃあ、お前よりは速いつもりだけど?」
 
 とんでもない事に、少年はこの状況を、なんと楽しんでいるらしい。
 冗談言ってる暇ないんだけど!!と突っ込みかけた瞬間、
 
「先行ってろ、後から追いつく。」
 
と、彼の手の感触が、消えた。思わず、立ち止まるミュート。


 
「え…?」
「おいクソジジイ、こっちだぜ!!悔しかったら追いついてきな!!」
 
 振り返りながらシェフを挑発し、早く行けっての!!とミュートの背中を強く押す。
 その力強い手の感触に、ミュートが再び真っ直ぐ路地を走り出す。

 ほぼ同時に、シーフは二階建ての民家の、薄い金属製の外付け階段を、二段飛ばしで駆け上がって行く。カンカンカン、と小気味良い音が、先を走るミュートの耳にも小さく届いた。
 



「おのれ!!待たんかクソガキ!!」
 
 シェフの注意は、より「腹立たしい」小童に向いたらしい。何より、階段は上りきってしまえば逃げ場が無い―――筈だった。唯一あの年齢の子供が考えそうな逃げ道は、階段の手摺りを滑り下りる事だったが、途中で首根っこを掴んでしまえば捕獲は簡単だ。
 案の定、階段を登りきった所で、少年は踊り場に追い詰められた。
 
「俺、クソガキじゃなくてちゃんと名前あるんだけど。」
 
 それにも関わらず、少年は余裕たっぷりに肩をすくめ、さっきの言葉はいかにも心外だ、という顔である。
 頭に血の上ったシェフが、黙れ!!とフライパンを振り下ろす瞬間――――そう、ほんの一瞬の出来事だった。
 
「おおっと…!」
 
 だがその一瞬における、感触、音、そして時間の全ては、長く長く引き伸ばされていく。
 



 男の一撃を交わし 彼は男の視界から姿を眩ます

 少年は高く舞い上がる 前かがみになったその肩に跳び乗って
 その身体は まるで軽やかに風に舞う木の葉の如く

 ふわりと空中でバク転し―――
 
 そのまま数メートル離れた民家のベランダの欄干に着地した。
 纏っていたマントが、思い出したかの様に舞い降りてくると同時に、彼はその細い足場で立ち上がる。
 




「!?」
 
 男は、フライパンを取り落とした。今、少年は、まるで平均台の上にでも立つかの様に、両足を縦に並べて静止している。
 だがそれは決して低く平らな平均台の上などではなく、地上八メートルはあるのではないか、という高さで、女性が軽く握り締められる細さの丸い欄干の上だ。そんな場所で、先の大技は易々とやってのけられた。

 これは、サーカスか何かの演目だろうか。あまりにも、現実離れした身体能力。
 
「なぁ、追いかけっこ続けんなら早くしてくれる?ずっとこういうとこで止まってんの、結構しんどいんだぜ?」
 
 軽口を叩いて、何度目かの挑発をしてみるが、相手は既に戦意喪失した様だ。
 踊り場の手摺りから下を覗き込む男の唖然とした表情に、少年は満足げな表情を浮かべ、
 
「じゃ、またな!…よっと。」
 
男とは逆の方向にクルリと向き直った。その一挙一動が一々肝を冷やしそうな光景だったが、彼には無用の心配らしい。

 緑のマントを翻し、タンタンタンタン、とすばしっこい猫の様な身のこなしで、細い欄干の上を跳び移りながら、少年は軽やかに駆け去っていった。
 
 
 












 
 
 話は少しばかり、時を進む。
 
「・・・ミュート、遅いなぁ。」
 
 マーシュは自分の部屋の時計を見上げ、ふぅ、と小さくため息をついた。
 約束の時間はしっかり守る方である友が、かれこれもう三十分以上も遅刻している。
 
 念の為に電話をしてみたのだが、父と二人暮らしである彼の家には、この時間帯、ミュートが留守ならば誰も電話に出なかった。となれば、帰りか、もしくは来る途中で何かあったんだろうか。
 マーシュが、こちらから迎えに行く事も考え始めていたその時、玄関のベルが鳴った。
 
「おにいちゃーん、僕ー。お友達も一緒だよー!大変なんだ、早く来て!!」
 
 リハビリから戻ったらしい、ドネッドの声だ。ミュートと、途中であったのだろう。それにしても、随分と急かすが。
 
「今いく!」
 
 ドネッドは、車椅子から歩行機での生活に変わっていた。彼の掛かり付け医によれば、補助無しで歩ける日も近いらしい。しかし今はまだ、些細な事でも周囲の助けが必要な時期だろう。マーシュは、階段を駆け降りる。
 マーシュは、ドネッドと約束したのだ。彼が歩ける様になったら、いつか兄弟二人だけで、旅をしよう、と。その夢の為、マーシュはドネッドを応援し、彼もまた、兄の声に応えようとしていた。
 
 玄関を開けると、慣れた手つきで歩行機を手すり代わりに、一段一段、階段を上ってきたドネットが、こちらを見上げた所だった。
 
「お帰り、ドネッド。今マット持ってくるから・・・ごめん、ミュートちょっとだけ待ってて。」
 
 そこまで言いかけて、弟の神妙な顔に気付く。
 
「お兄ちゃん、母さんは?」
「今は、留守だけど。」
「そっか、良かった。あ、あのさ!僕、自分で上がれるから、”助けてあげて”?」
 
 ”助けてあげて”――ドネッドでなければ、誰を?
 耳を疑い、その数秒後にマーシュは己の目をも疑う事になる。
 
 兄を促すドネッドの視線の先に、少年…マーシュ達から見れば、青年と言ってもおかしくはない人物が一人、腕を組んで立っている。表情に乏しいきつめの顔は、勿論今までマーシュが待っていた気の優しい友人のそれではない。
 だが、マーシュは、彼をよく知っている。そして、短い時間であったが、ドネッドも。
 今はとても近くて、遠い存在である筈の―――
 
「…エメット?」
「ああ。」
 
 ―――何故、此処に。
 問う方も、問われる方も、困惑を隠せないまま―――
 
「…お、お兄ちゃん、とりあえず上がって貰いなよ。」
 
 ドネッドの声が、マーシュを引き戻した。
 
「あ、ごめん。その、びっくりしちゃって。」
「それは、俺もだ。正直、まだ自分の置かれた状況が把握出来ん。」
 
 遠目に見える―――確か狩人の彼は視力が良かった筈だ―――金属的な建物や、通りを走る自動車。それらを映すエメットの瞳は、どこか揺れている様にも見える。
 
 それを見たマーシュが、顔を引き締めたのをドネッドは見た。兄の事だ、またきっと友の為に大きな役割を背負おうとしているのだろう。
 ならば、このお人好しの兄を倒れない様に支えてやるのは、自分の役割だ。ドネッドも密かに、決意する。
 
「僕も・・・最初に”そっち”に行った時は、そんな感じだったよ。」
 
 マーシュの声に、エメットは、やはり此処はお前達の世界か、と肩で息をついた。
 異世界に来たらしい事は確定事項となってしまったが、顔見知りが居るのであれば、勝手の分からぬ世界でも何とか生きてはいける。それは、今エメットの目の前に居る少年が、実際に証明して見せた事だ。
 納得と不安、そして一握りの希望。いや、一握り以上か。

 …あの”事故”の時、仲間と逸れてしまった。今ここで、マーシュ達に会えた事程、励みになる事は他に無い。

 
「とにかく、上がって。それで、話を聞かせて。」
「・・・良いのか?」
 
 頷くマーシュの横から、ドネッドも顔を出す。
 
「あったり前だよ!!」
「・・・すまん。」
 
 全ては、自分が向こうに行った時、一心に支えてくれた仲間の為。

「良いよ、困った時はお互い様だから。」
「お兄ちゃん、お菓子まだ3人分あるよね?僕、とってくるから、先にエメットさんと部屋行ってて。」
 
 兄弟に、かつての仲間は、すまんな、と一言詫びて、ぽつりと、
 
「・・・仲良くやっている様で良かった。」
 
と、兄弟どちらに対してという訳でもなく呟いた。それを耳にした兄弟が、少し驚いた様に顔を見合わせ、はにかんだ様に笑った―――

 それが、ミュートがワイリーに出会った、一時間程後の事だ。
 
 
 
 
 






 先に路地を抜けたミュートに、少年が追いついたのは、分かれてから十数分経った頃である。
 足が速い、と自称していた割には遅かったから、てっきり白昼夢でも見ていたのかと思った、と頬を膨らませミュートが訴えれば、奴の厨房からソーセージくすねてきたから、それで機嫌を直せ、という。
 
 だが、首に腸詰め状態のままのソーセージを巻いてやって来たその姿は、どう見ても。
 
「・・・ワイリーさん、泥棒犬っぽいよね。」
「うるせぇ、ほっとけよ。後、呼び捨てで良い。何か、元とは言え王子にさん付けされると調子狂うわ。」
「じゃあ、元王子から言っておくけれど、この世界は基本的に”盗む禁止”だから、次からは気を付けてね。あ、後“刃物禁止”も。」
 
 再会してすぐ、ワイリーだと名乗った少年シーフは、「ちっ、マジかよ。んじゃさっきのおっさんは何なんだ。フライパン禁止はねぇのか?」と顔をしかめる。
 どうやら、敵地まで乗り込んでわざわざ戦利品を取りに行っていたから遅くなった様だ。彼曰く、倒した敵から何も”頂戴しない”のは、シーフの名が廃るらしい。だが、彼の常識は、ここでは残念ながらもう通じない。


 
 まぁ、あのレストランに限っては、街中の悪ガキの間で、ソーセージをくすねる事が、度胸試しとされ、達成した者は少年達の間で英雄視されてきた節があるので、別かも知れないが。今までで、成功していたのは確か・・・
 




「おい、ミュート。見慣れない奴連れてんじゃねーか。」
「ライル!?」
 
 思わず、声が裏返る。近頃はあまり絡まれなくなったものの、ミュートとライル達が、互いを好ましく思っていない事と、彼らが街でも評判な悪ガキである事には変わりはない。
 
「何か用?」
 
 近付いてくるライル、そしてその後に続くギネスを睨みつけて牽制する。ギネスは、少し戸惑った様にライルを見たが、ライルは今日はおめーじゃねぇよとミュートを意に介さず、ワイリーの目と鼻の先まで歩み寄ってきた。
 あまり好意的とは思えぬ相手に、ワイリーはひょいと片眉上げ、ニコニコと微笑んだ。剽軽そうにしているが、その目はライルを値踏みする様に油断無く見つめている。
 
 違う陣営ながら、それを怪訝に思う気持ちには変わりはないようで、ミュートとギネスは互いの目を見交わし、二人を見守った。
 
「そこのふざけた格好のお前、それをどっから盗ってきた。」
「人のファッションにケチつける奴に教えたかねぇよ。大体、どっからって言われても、俺、今日初めてここに来たんだぜ?店の名前も知らない。」
「こいつ…!!」
 
 むすっとしてワイリーが発した、初めて、という単語にライルの顔が険しくなる。
 




(これはまずいかも…)
 
 ミュートは気付いた。
 これまで、この街であの“度胸試し”で、捕まらずに、つまりあのコックに罰を受けずに帰還する事に成功した子供は、ライル一人だった。だが、ワイリーは彼が何回も失敗して――そんな時大抵は、ギネスやコリン達取り巻きがボスの面子の為に身代わりになっていたが――やっと成功させた記録を、最初の一回で塗り替えてしまったのだ。
 
 唯でさえ、外からの来訪者に敏感な田舎町。見も知らぬ余所者が、悪ガキ達のカーストの頂点にいる者の記録を破るのは、道場破りに等しい行為だ。つまり、次に起こるのは、



 どちらが上か、相手に思い知らせる、力と力のぶつかり合いだ。



 
「王子、悪い。これ持ってろ。」
「わわ!?」
 
 ミュートが、放られたソーセージを顔の前で躍らせながらも何とか受け取った、と同時に。
 
「うぉらっ!!」
 
 ライルの怒声が、飛んだ。



 
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