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~It's my Belief~ 




 


 ―――顔の左側が熱い

 こんなに小さいのに、こんなに強い。すごいなぁ。


 ミハエルは毛布に身を包み、木製の小さな椅子に腰かけていた。先まで羽織っていた真紅のローブは今、彼の斜め上で、しっとりとした重みを纏ったままハンガーを抱き、持ち主と同じ火に照らされている。
 少年の横には、小さな暖炉。ミハエルは最初、故郷で見てきた様な、大きく、四角くて白い暖炉と違う、と驚いた。レンガは剥き出しの半円形で、やや造りがごつごつして、正直、見た感じは綺麗だと思えない。だが、その不器用な造りには、不思議な暖かみが感じられた。

 先程から、その小振りな暖炉の火力が大きい暖炉と全く変わりない事に、ミハエルは驚いているのだが、彼はその決め手が暖炉の大きさではなく木炭の出来である事を、まだ知らなかった。



「足を見せろ。」

 バンガの老人―――スペングラーが、右腕に金縁の、白い磁器製の器を抱えて歩いてくる。
 摺り足をしている様に見える左足には、実際殆ど体重をかけてないのだろう、左手に持った杖と、右足で体を支えている為、一歩踏み出す毎に体が大きく揺れている。コッ、コッ、という彼の杖の音に合わせて、ちゃぷりちゃぷりと音がする事から、ミハエルは器の中身が液体である事を知った。

 ほぅ、としゃがむのもしんどそうに息をつきながら、老人はミハエルの足元に器を置いた。澄んだ黄緑の湯が張られた、真っ白な器の底で、赤やオレンジの花の絵が揺れている。

 
(義姉さんが好きそうなお皿だなぁ。)

 女の人が好きそうな皿と、目の前の強面のお爺さん。この組み合わせが意外で、不思議で、こそばゆく、ミハエルは怪我をした足を出すのも忘れて、ついまじまじと器の底の花を覗き込んでしまった。

「薬湯が嫌いか。」

 先の短いジジイの時間を無駄にさせるな、スペングラーは痺れを切らし、珍妙な面持ちで器を見たままの少年の足を引き、裾を捲って傷口を湯につけた。

「いっ…!!」

 まるで、塩でも塗り込まれた様だ。ミハエルは身悶えして足を引っ込め様としたが、スペングラーはその足首を、節だらけの手でがっちりと掴んだまま、バチャバチャと容赦なくそこに湯をかけ続けている。

「捻った訳でもないだろうに、この程度で音を上げるンでは先が思いやられるな。」

 スペングラーの呆れ声が耳に痛い。
 怪我の手当てとは、こんなにも辛いものだったのか。



(ベントンさんも、ワイリーさんも、それから、それから…)

 あのちょっと恐そうな闘士のチェルニーさんも、何でもなさそうにしていたのに。
 まだ日の浅いクラン生活の中でも、ミハエルは仕事から帰った仲間が、体中に傷を作って帰ってくるのをしょっちゅう見てきた。
 それでも、皆見上げる自分の頭をポンポン、と撫でてくれたり、まるで勲章みたいに見せてきたり、そのまま楽しげに夕食をかき込んだりしていたっけ。怪我するのが仕事みたいな彼らが、みんなそういう様子だったから、まさかこんな小さな自分の傷口が、あんなに血を流したり、これ程痛んだりするものとは思ってもみなかったのだ。

 これでこれだけ痛むのだから、彼らが痛くない筈がない。それなのに。


「かっこいいなぁ。」

 スペングラーが訝しげにミハエルの顔を見たので、ミハエルは今さっき考えていた事と、自分もそうなりたいという憧れを口にした。
 まだ仄かに涙目のままの瞳を夢見がちに輝かせている少年。その様子を、老人は黙って数秒見つめていたが、

「お前はまず、こんなどんくさい勲章を作らン所からだ。」

と見事に痛い所を突いて、少年を赤面させるのであった。


 










 ―――送った”手紙”は、ご迷惑をおかけしていないでしょうか。


 スペングラーは、ミハエルを小屋の一室で寝かしつけた後、彼が大事に抱えてきた手紙の封を自室で開いていた。
 手紙には、流水の様に美しく筆記体の文字が流れ、その末尾はクランの押印で締められている。やや大きめの字は、読み手への心遣いか。ミハエルの兄ドメニコが、スペングラーに弟を預ける件での感謝と労いを綴ったものだ。

 少年は夢にも思っていないだろう。まさか本当の輸送対象が手紙ではなくそれを運ぶ自分であるとも、その配達先の人物が自分と同じクランのメンバーである、とも。



 スペングラー・バルバストルは、自他共に認める、気難しい頑固ジジイだ。若い頃に神殿騎士として戦場を駆け回っていた経験が、その気質に拍車をかけている。
 元より、子供を構うのが得意ではないというのもあるが、手本も考えも全て与えられて、それを一から十まで鵜呑みしてから、人の鏡写しでしか動けない子供が、彼は嫌いだった。そうして育った子供は、覇気も気骨も自他の境も無く、他に安易に迎合し、失敗と責任を恐れ、新たに挑む事を知らぬ、というのが、この元武人の老人の譲れない言い分だ。
 故に、彼は甘えたい盛りの幼子であっても、一だけ教えて二から十までは極力手助けせずに自力で学ばせる放任主義者であった。

 だからあの少年にも、薬湯の処置の後、敢えて包帯までは巻いてやらなかったのだが、意外にも彼は楽しそうに足の傷を見つめそのままで良いと言った上、薬湯の調合まで聞きたがったのだ。


 手紙をちゃんととどけました~っていう、記念だから、このままがいいなぁ


 甘ちゃんな子供に有りがちな言動を一瞬でも見せたら突き放すつもりで居たのだが、そうした事は全く無くて、スペングラーはやや拍子抜けしたものだ。だが、同時にほっとしてもいた。
 寝る時も、最初こそ、窓から墓地が見える上、真っ暗な部屋の雰囲気に怯えてはいたものの、何故か部屋に一人で寝る事にはあまり抵抗が無かったらしい。吹雪の中歩いてきた疲れもあって、ストンと眠りに落ちていった。
 貴族の子と聞いて、きっとベタベタに甘やかされて育ったのだろうと端から決めつけていたのだが、どうも考えを改めねばならぬ様だ。

 眼鏡をかけ、拡大鏡を持ち出して、それでも目を細めたりしながらようやく手紙を読み終えたスペングラーは、棚にある愛飲の煙草と共に、万年筆を手にとった。

 書くものは勿論、手紙の返事だ。だが、今日綴るのはまだ、一枚だけ。
 降り続いていた雪はようやく、止んだ。

















 


「おお?まだ起きてたのか。」

 ワイリーが仔馬亭の階段を上がっていくと、ドメニコが、廊下でワイン棚を物色していた。
 ワイン棚、といっても少しばかり特殊な物で、ワインボトル一つ一つに振られた番号の札と、指定の料金を横の箱に入れると、読み取りの魔法と簡素なカラクリの複合システムによって、ボトルについている鎖が外れる仕組みになっている。クランを泊まらせている宿では珍しくない代物だ。
 一階でパブの亭主が振舞うそれよりも小さな、飲みきりサイズの瓶に入っているのが常で、客によっては物足りない、十本あっても少ないくらいだと豪語する者も居る。


 がしかし、問題はそこではない。
 残り少なくなったワインを両手に一本ずつ持って、考え込んでいるドメニコは、なんとバスローブ姿である。従者のベントンが見たら、「風邪さひくヨォ」と肝を冷やして部屋に戻す所だろうが、今は眠っているだろう。
 元々はドメニコもベントンと同刻に眠っていたのだが、すっかり味をしめたのか、時たま従者よりもかなり長めに夜更かししては、こうして自由過ぎるほど、自由を謳歌している。ベントンが起きている間は、“あれでも”彼に気を遣っている方なのかも知れない、とワイリーは思う様になっていた。

 それでもやはり、廊下でその格好は、色々な意味でアウトである。



「風邪ひくぞ。」
「そんなヤワじゃないから大丈夫ー。」

 どうやら、少し候補を絞れてきたらしい。ドメニコは左手に持っていたボトルを、別の物に持ち替えている。

「女みてーな顔してんだから、油断してっと襲われるぞー。」
「そっ、ぉんな事考える下っ衆野郎はっ、そこから蹴り落とせば良いじゃない?」

 切れ切れの笑いが混じった“マジの”声で返されたワイリーは、急いで階段を離れ、両肘から上だけを上げた軽い降参のポーズで、ドメニコの横に並んだ。
 ワインはと言えば、既に何本かは売切れており、三段構え、横幅二メートル程の棚に残るワインが五本程度とは、いくらこの時間恒例の光景とはいえ、少し寂しい気もする。



「おめーもさ、口が悪くなったもんだよな。」
「おかげさんで。」
「いって!」

 額を指先で軽く弾かれて、ムスっとしているワイリーを尻目に、今度はその彼を弾いた右手で、さっきまでとは別のボトルを取ったドメニコ。眉根にほんのり皺を寄せて、真剣に悩んでいる。公子だけあって舌も肥えている彼は、ワインの味にも結構うるさい。

「晩酌しようと思ったんだけど、“レディ・シエンナ”が売切れちゃっててさ。」
「ふーん、珍しい事もあるもんだな。そういや、仕事で一山当てたっぽい奴、居た気もするけど。」
「ええ、本当に?」


 赤ワインでありながらまろやかな味で、それでいてしっかり酔える事で名を知られた銘柄、レディ・シエンナは、琥珀で有名なシエンナ峡谷付近で作られているもう一つの名産品だ。
 金粉を纏った細めの上品なボトルと、そうそう簡単に手の伸ばせぬその値は正に“貴婦人”で、クラン業界の男達は、この酒をその名の由来に準えて「毎晩でも飲まれたい女だ」等と揶揄する。中には泥酔のあまり、本当にこの酒を寝具の上で抱き抱えていた男も居たという噂まである程、人気のワインなのだ。

 貴婦人がその高価さ故、普段棚に残されるのを良い事に「レディが夜に一人とか可哀想でしょう?」と気取り、結構な頻度で愛飲していたのが、ギルに不自由していない、このドメニコだったのだが。

「あーあ、今夜はフラれちゃったなぁ。」

 まるで本物の女にフラれた様に、心底残念そうである。だがこの青年、こう見えて既に所帯持ちだ。それも異性関係に関しては政略結婚の一本道で、かつ夫婦仲は睦まじく、実際にそんな哀愁に満ちた経験があるのかは、かなり怪しいとワイリーは見ていた。

「ま、おめーもここに居る限り貴婦人ばっかり飲んでいられねーってこった。こいつとかどうだ、ローダ・ドラゴン。」

 言ってワイリーは、赤地に雄々しく炎を吹く竜のシルエットが描かれたボトルを掴んだが、そのボトルが冷たかった事から察するに、どうやらドメニコは最初から一度もそれに触っていなかった様で、実際

「それは下でバカ騒ぎしたい時用のでしょ?現に誰もここで買ってないじゃない。大体、こんな夜更けに飲んだら目が覚めちゃうよ。」

と一蹴されてしまった。始めから本人の候補に無いのなら勧めても仕方がない、ワイリーは渋々とドラゴンを定位置に戻した。彼自身は結構、好きな味だったのだが。


「目が覚めるってお前、今寝てんのかよ。」
「まったく、細かい男は嫌われるよ~?」
「な、俺よりずっと細かい奴あそこに居るだろが…っ!」
「しーっ、彼、明日早いんだから。」

 ビシッと廊下の奥の部屋を指す腕を、そっとドメニコは制する。あいつは毎朝早いだろ、と不服そうに腕を降ろしたワイリーが、何だか少し微笑ましくて、ドメニコは、そうだったね、と微笑した。



「弟とも、こんな感じで話せたら良いんだけどね。」

 ははぁ、こんな時間まで起きていたのはもしかして、とワイリーがドメニコを見やると、照れ隠しだろうか、ぱっと顔を逸らして棚を向き、

「よーし、決めた。これにする。」
と大袈裟に手をポンと叩いてコインを投げ入れ、一つのボトルの鎖を外した。


 ウィンド・オズモーネ。赤ワイン好きのドメニコには珍しく、その中身は白い方だ。口当たりはあっさりとしていて飲み易く、それ程きつい酒でもない。この量であれば悪酔いする事も無いだろう。
 それを彼は、ワイリーの前でちらちらと振って見せる。

「なんか目が冴えちゃってさ、これだったら良い感じに眠くなるんじゃないかな。どう?一杯付き合わない?」
「しゃーねーな、呼ばれてやるよ。」

 ワイリーの返事に、お、嬉しいなぁと喜びながらも、じゃあこれ談話室まで宜しくね、としっかりボトルを押し付けて、自分はワイン棚の横にある籠から、グラスを二つ持ち出している。この流れだと、注ぐのはどちらになるか目に見えていたが、ワイリーは文句を言わなかった。酒自体はドメニコの奢りだというのも大きい。



「んじゃ、これ運んでくるから、お前は早く寝巻に着替えて来いよ。廊下うろつく格好じゃねぇぞ、それ。」
「そうだね、そうする。」
「なぁ、ドメニコ。」
「んー?」

 グラスを弄んでいたドメニコが振り返ると、ワイリーが苦笑いを浮かべてこちらを見ている。バスローブ姿で居る事でなければ、自分の何がそんなに滑稽なのか…と思えば。

「あいつはああ見えて、結構しっかりした奴だから心配してやんなって。」

 どうやら、眠れない理由はバレバレだったらしい。

「…あれ、何の話かな?」

 とぼけた様子のドメニコだったが、その顔には満更でもなさそうな笑みを浮かべていた。









***** ***** ***** ***** *****







 冬になると書きたくなるこのシリーズ。
 後半は完全に、弟持ち、妹持ちのお兄さん達の晩酌にしたかっただけ。陽のイヴァリースでは、飲酒は13歳くらいからOKの文化だとか。働いていれば一人前の大人、みたいに年齢に縛られない緩さがありそうです。
 文中のワイン棚は、イヴァリースにおける自販機をイメージして描きました。自販機(?)の前で立ち話って良いですよね。あれっ?

 ちなみに、今回はかなり意識して、描くキャラによって地の文の柔らかさ、具体的には仮名の多さとか、単語の易しさ等をちょっとずつ変えてみました…が、前から文体がキャラにつられるとか、そういう部分はあったかも知れません、分からん!
 あんまりやり過ぎると、今度は文体自体に一貫性が無くなるので、ちょっとずつ調整しながら、登場人物の思考に自然に寄り添える様な文章にしていきたいです。


































 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  


 


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