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故郷より

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 ―――親愛なるアームストロングへ

 兵士学校卒業、おめでとう。ついこの間、君が街を出て行ったと思っていたのに、もう五年も経っていました、早いなぁ。
 こっちは君の居ない間に、随分変わりました。飛空艇ターミナル周辺なんか、別の街みたいになっているよ!!

 そうそう、君の所のお祖父さん。相変わらず公園の子達に飴玉あげているみたいなんだけど、この間、帰り道を忘れちゃって戻って来なくて、もう大騒動になっちゃって!!
 無事だったから良かったけれど、あれから今日まで、ずっとこちらの付き添いで一緒に公園に出かけてます…っていうのは、おばさんから聞いているかな?戻ってきてびっくりするといけないから、先に伝えておきます。

 彼、話を聞くと戦争前とか、昔の事はしっかり覚えているんだけど、時々こちらの名前とか、スコッと忘れちゃうみたい。仕方がないとはいえ、小さい頃から遊んで貰っていた身としては、ちょっと寂しいかもなぁ。

 君もたまにはこっちに帰ってきて、彼に会ってあげてね。孫の顔見たら、きっと喜ぶと思うよ。

 仕事は、シリルで探すのかな?落ち着いたら、今度遊びに行かせてね!!


                               

                                    ヴィクトール


 


 


 




















「ついに、いっちまったか…」

 横で呟く男の顔を見ぬままに、そうだな、とエメットは返した。



 時折、水分を含んだ西風がコゥッと力強く、周囲の枯草をザザァッと震わせながら、二人の間を吹き抜けていく。遠く、街道果ての海辺から、大河沿いにバクーバを越え、その東方にあるシリルに、そして彼らの居る街外れの小さな山の上まで、雲と共に春を告げる風。
 冬の間、山脈がシリルへと吹きかける乾いた北風程冷たくはないが、本格的な春風というには、まだ温もりの足りぬ、この時期特有の突風だ。

 エメットの視線の先には、墓石に花を供えるドメニコと、その後ろで祈る様に目を瞑る従者ベントンの姿があった。彼らも、他に集まったクラン関係者達も黒の衣服を纏っている為、どこに首を回しても、大体その色が目に飛び込んでくる。
 墓石に掘られた名は、スペングラー・バルバストル。享年、百三十八。二百年の時を生きるバンガ族としては、やや短いか。


「ほんっと、肺患いの癖に死ぬまで煙草止めなかったよな、あのトカゲ。」

 エメットと同じ様にドメニコ達の方を見やりながら、男――ウィリアムが、やや赤くなった目尻を親指で軽く擦り、軽口を叩く。
 その彼に、なんじゃと、ヒュムの小猿めが、と拳骨を落とした墓守は、もう居ない。正確には、その小猿、シーフのワイリーも。

「そう、だな。」

 エメットは、遠く八年前の、ウィリアムを助け出した、あの雨の山道を思った。




 ウィリアム―――クランメンバーは、ウィルと呼ぶ―――かつてエメットの所属するクランでワイリーと名乗り、シーフを生業にしていた少年も、そしてエメット自身も、今年でそれぞれ二十二、二十三の歳を迎えようとしている。五年前からベルベニアの実家に戻ったウィルは、正式に父の後継者として王家直属のジャッジの道を歩みつつ、それでも時々クランにシーフとして顔も出していたが、最近はイヴァリース公国全土にキナ臭く張りつめた空気が漂っているせいだろうか、その機会も年々減ってきていた。
 クランに出てくる時の彼は、かつてのままの、身軽そうなシーフの出で立ちだが、恐らくもう、その軽装よりも白銀の鎧を纏っている時間の方がずっと長いだろう。チョコボに跨り、数百もの兵を指揮し、その鎧に眩く光を反射して。

 一方、同じクランに居るとはいえ、エメットはシリルの一市民に過ぎない。スペングラーを真似て小猿と呼んでからかっていたかつてのライバルは、いつの間にか、彼からこうして会いに来てくれなければ、気軽に声もかけられぬ存在となっていた。




「お前、人の話ちゃんと聞いてる?」

 “元小猿“のひょうきんな声。

「さぁな。」

と応じれば、聞いてんだろ、口が笑ってんぞと突っかかってきた。

「変わらんな、お前は。」
「悪いかよ。」
「いや。」

 なんとなく、それが嬉しかった、と言えばウィルは目を丸くして、ふっと柔らかい表情を浮かべた。

「お前は変わったよ、いい意味でさ。昔より大らかになった。」
「そうか?」
「そうだよ、前は人にも自分にもすーぐカリカリしていたじゃん。手取り足取り上げ足取り魔だったぜ。」
「ふん…自分を許す事を覚えただけだ。そうしたら、お前のふざけた所も気にならなくなった。」
「おい、」

ウィルが眉根を寄せた、その間をパチンと指で弾く。彼はよく、自分や他のメンバーから、こうしてデコピンを喰らっていた。当時の彼は小柄で、リアクションも大きかったからか、そうやってからかいたくなったのだ。

 今はエメットより、ほんの少し高くなった額―――



 ってーなこのやろ、とウィルから悪戯に伸びた拳を片手で受け止めて、エメットは再び墓石の方を見やった。
 ドメニコが、空を見上げている。特にそういった趣向の無いエメットから見ても、彼の横顔は出会った当時と変わらぬ、あの一種の魔的な美しさを保っていたが、そのどこか寂しげな瞳に、以前の様な無邪気さはもう、見出せなかった。笑っていても、無理しているのが見てとれる様な、あるいは、ドメニコ自身、己の憂いに素直になったという事なのか……。
 それが、傍目からは若いままに見える彼が、唯一にして大きな、歳を重ねた証拠かも知れない。


「ミハエル、まだ見つからないんだな。」

 一番、この場に呼びたかっただろうよ、ウィルが目を細めて見ている。スペングラーか、と問えば、ちげぇよ、そこの兄貴の方だよ、と苦笑された。

「てっきり爺さんの方かと思った。」
「…んまぁ臨終ん時はそうかも知れねーけど、もう逝っちまった奴の気持ちは推し量れねーだろが。じゃなくて…爺さんとさ、仲良くしていたじゃないかあいつ。俺も妹居るから何となく分かるんだけど、やっぱ自分の弟と仲良くしてくれていた奴の死に目にはさ、あわせてやりたかったんだと思う。」

 俺はじーさん苦手だったけどな、笑いながらウィルは、“その時”の事を思い返していた。朝から晩まで走り回り、ローブを擦切らせて短い眠りについていたドメニコの姿を。




 十二歳の秋、ミハエルは唐突に姿を消した。ウィルやエメットは、ドメニコづてに話を聞いただけなので、直接状況を目にした訳ではない。
 子供が行方不明となれば、迷子でもない限り真っ先に考えられるのは誘拐だったが、彼の場合はそうではない。置手紙と、一房の髪―――ミハエルは兄と同じく、伸ばした髪を一つに結わえていた。その部分だろう―――をヴィクトール家の自身の部屋に残して、ある日忽然と居なくなったそうだ。恐らくは、己の、意思で。


 ヴィクトール領内でその姿は見当たらず、シリルでもクラン総出で探したが、恐らく彼は知り合いの全く居ない所へと向かったのだろう。何の手掛かりも得られないまま、五年の月日が過ぎ去った。
 ミハエルも、生きていれば、十七歳。彼の兄が、このクランに加入した時と同じ年齢になっている。もう、身の丈も声も変わっているだろう。ぱっと会っただけでは分からないかも知れない。


 それでもドメニコは、今も政の合間を縫って、ミハエルを探し続けていた。




「生きて、いるよな。ミハエル。」

 半ば祈りに近いウィルの言葉。

「何かに巻き込まれたっていう情報は無かった。皆で聞き込みしまくっただろ。」

 そう答えたエメットも、あまり自信は無い。生きていろよ、が生きていてくれ、になり。それが生きているかも知れない、と心許ない気持ちに変わってしまったのは、いつ頃だったか。
 それでも、生きていて欲しいとクランの誰もが思う中、いっそ薄情な程に潔かったのはチェルニーだ。


 ―――いつまでも見苦しいな、いい加減魔獣か何かに食われているだろ。





「チェルニーだけは、それも二週間で止めてしまったけどな。」

 エメットが言わんとしている事を察して、あん時のドメニコの激昂っぷりは凄かったな、ウィルも苦笑を浮かべた。一時は出自の垣根を越え、仲間として苦楽を共にしていたチェルニーとドメニコであったが、片や獅子、片や赤豹の、あのまるで野獣同士の様な争い以来、二人が一緒に居る姿を目にする機会は少なくなった。
 よくあれを仲裁したものだと、エメットはウィルに内心舌を巻いていた。双方を殴って止めたのである。

 悪いな、俺どっちの気持ちもすっげぇ分かっちまうからさ、これで仕舞いにしようぜ、と言って。




「こういう事については、妙に諦めの良い女なんだよ、あいつは。」

 その男は、まるでそんな事は忘れたといった態で、エメットの隣で飄々としている。

「…そういや今日も、爺さんの葬式で見かけてないな。」
「あいつなら、ドルーサまでクエストに行ったよ。なんでも、喧嘩の約束がついでであるとか何とかで。」

 そりゃ、クエストの方がついでだろう、とため息交じりにエメットは呟く。

「違ぇねぇ。ま、それこそ最期に奴に来て貰おうとか、じーさんも期待してなかったろ。」


 でもなぁ、せっかく会いに来てんのに、俺より喧嘩の方が大事だってのはどうなんだよと、とウィルは肩を竦めた。

 いつの頃からだろうか、ウィルとチェルニーの関係が、少しずつ変わり始めていた。今となっては、クランの仲間中が知る所となっているが、チェルニーはと言えば、年頃になっておしとやかになるどころか、相変わらず路上での殴り合いを好む荒々しい性格で、「教養ある女性」を息子の嫁にと期待している古典的な父親相手に、いつ言い出すべきか、ウィルは随分と苦労している様である。
 少し前に、俺が女であいつが男だったらもっと言い易かったのにな、ほら、あいつ将軍っぽいじゃん?めっちゃ喜ばれるぜ、そういう男、と、ウィルが軽口を叩いていた事もある程にだ。



「だが、そういう所が好きなのだろう?あの闘士も、誰かさんと同じで、変わらんものを持っているからな。」

ぽんぽん、とウィルの肩を叩いて、エメットは仲間達の方へと歩いて行った。

「……ほんっと、」

おめーのお節介も変わらねぇけどな、その背に呟いてウィルは腕を組み、遥かな天を仰いだ。
 西から東へと、灰色の雲がちらちらと光の柱を零しながら、押し流されていく。






 前バレンディア暦七百三年、緑葉の月。公国が戦乱に巻き込まれていく、一年前の事だった。










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