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蛇の道


***** ***** ***** ***** *****





 流石、シリルは広い街だ。こちらに来て数十日、結構歩き回ったつもりであったが、まだまだ、この街を把握するには足りない。
 それでもようやく、長期滞在出来そうな部屋を見つける事が出来た。小奇麗な三人部屋。
外からの流れ人も多いこの街では、一人部屋を探す方が難しい。これが、この街の最もスタンダードな形と言えるだろう。

 幸い、部屋には一番乗りだったらしい。ベッドは早いもん順だよ、との女将の声に従って、窓際のそれを頂く事にした。

 荷物を置き、マントを外して壁にかけ寝台に寝転がって、ふと、まだ移り先を探しながら兵士学校に居た時に、知人から貰った便りの存在を思い出した。口を紐で縛っただけの、単純な革袋の中から、くしゃくしゃになってしまったそれを取り出して、青年は読み返した。

 ―――親愛なる、アームストロングへ


 















 


「バブズ様、エクセデス様がお戻りになられまし…っ!…た。」

 自らの仕えるルーンシーカーが、こと何かに集中している時には、あまり威勢の良い報告を好まない事を思い出し、兵士は慌てて声のトーンを落とす。難しい顔をして世界絵図と睨み合っていたン・モゥの青年が、下がって良いぞと声をかけると、兵士は一礼して石造りの廊下の向こうへ退いていった。その後ろから、彼と入れ替わる様に姿を現したジャッジがいる。

 ウィリアム・Y・L・A・エクセデス。法の番人たるジャッジマスター五家――アドラメレク家、マティウス家、ファムフリート家、アルテマ家、そしてエクセデス家―――の一人。その例に漏れず、彼もとても長い名を持つ。よって、よほど親しい者以外は一番下の名でしか呼ばないのが通例だ。

 コツコツコツ、と石の床に鉄靴の音を響かせて、エクセデスがバブズの卓に近付き、覗き込む。世界絵図の上には、公国の周囲で対立する様に向かい合う布陣を示す、チョコボの形をした二色の石が、複数個置かれていた。チェスのナイトと同じものだが、その絵図の上の駒は、いわばその元となった軍事用の現物だ。


「いつまでもそんなものを眺め回していても、状況は変わらぬぞ、シーカー殿。」

 バブズの肩をぽんぽん、と叩き、彼はその卓についた。

「随分長い休暇だったじゃないか。総括が一人減るだけで、どれだけの負担がこっちに回ってくるかも、把握しておいて貰わんとな。その鎧は飾りではなかろう?」

 おかげで、私は首が痛い。これ見よがしに首を回して、バブズもようやく、卓から目を離し、ぼすっ、と背中から落ちる様にして席に着いた。

「父よりこれを譲り受けた時、最初に馬子にも衣装だなと言ったのは、貴殿だったと記憶しているが。」

 若いジャッジが、苦笑混じりに自らの鎧をカンカン、と指で叩いて見せる。

「だから、それに見合った仕事をして貰わんと困ると言っているのだ…これからもな。」
「…仰られずとも。」
「そうか。なら………」


 二人は、卓上の布陣図を見やった。

 長い様で短い沈黙の後、「民と街の様子はどうだったか」、と尋ねたのはバブズだ。この問いに、エクセデスが片眉をひょいと上げる。今、この国の向かっている状況を鑑みれば、この青年が必要としている情報は、確かに自分の中にある。だが。

 エクセデスは―――ウィルは、眉根を寄せて、長い長い溜息をついた。



「お言葉ですが、シーカー殿。私が街に降りたのは、一市民として旧友に会いに行く為にであり、あくまで私用。ジャッジとしての視察の為ではございませぬ。」
「そうだな、お前ならそう言うだろうと思っていた。だが見ての通りこのきな臭い情勢、」

 立ち上がったルーンシーカーの後ろ姿が、一瞬、ウィルの視界を塞ぐ。再びウィルの眼に映った布陣図の駒を一つ持ち上げて、移動先を探す様に地図の上を彷徨わせた後、彼は元の位置にそれを戻した。

「民がどう思い暮らしているか、“シーフ殿”の手でも借りたい状態なのだ。」
「ならば、シーカー殿ご自身で街に降りては如何か。」

 やや不機嫌なウィルの顔を横目で見ながら、私が行っても、民はいつもの姿を見せてはくれないさ、とバブズは余っている駒を一つ、ジャッジの方に放った。

「…それは、俺だって同じだ。」

 空中で掴み取った駒。その、王冠でも、チョコボでもない、何の形も示さぬ、一番非力で小さな「伝令」の駒を眺め回しながら、彼はぽつり、呟いた。

「エクセデス?」

 ジャッジの青年は、全てアホらしくなった、とでも言いたげに、腕と脚を大きく伸ばし、椅子の上にだらしなく投げ出した。そのままゆっくりと、両手を頭の後ろで組み、石造りの天井を見上げる。

「街に降りる時は、昔の様にエクセデスとしての俺の事を忘れてさ、こう、一介のシーフのつもりで行って、あいつらと話してクランで仕事しているんだがな…。結局、こうして城に戻ってあんたからそんな質問されると、それって全部国の為にやっていたのか俺?みたいな感覚になっちまう。国の紐付きシーフになっている気分が抜けねぇ。」
「………。」
「俺が親父の後を継いだばかりの頃はさ、あんたも、クランの連中も俺の中に見ていたのはまだ俺だけだった。でも、今は時々………」



 ―――鎧を纏った盗賊に見えたり、その逆だったりすんだろうな


 な!なんか実際に想像するとすっげー笑えるよなそいつ!と笑うウィルの眼が酷く寂しそうに見えて、バブズはついと顔を落とした。



「…すまないな、ウィリアム。」
「馬鹿、謝んなよばーかばーか。しょうがねぇだろ、時勢が時勢だし。そのウィリアムさんが、街で見聞きした事教えてやるって言っているから、きちんと生かして、こんなクソな状況さっさと終わらせるぞ、バブズっ…!と。」

 ウィルは椅子から起き上がり、部屋に置かれた大きな肖像画を見つめた。その決意を秘めた横顔の中に、先程までの孤独な盗賊の姿は既に無い。
 ルーンシーカーもまた、騎士の視線を追って、その肖像画の家族を見つめる。

「無論だ。私は、この国を託されたのだからな。」



 ―――王子、必ず、イヴァリースを守ってみせます




 肖像に目礼をし、バブズは、後方の棚から一つの本を取り出した。イヴァリースが公国に移行して以来、公のものとは別に、彼が私的につけ続けている国政記録帳だ。

「さて、聞かせてくれるか?エクセデス。」
「んじゃあ、まずあちらさん方面の…コホンッ!」

 ウィルは廊下を通り過ぎていく足音を耳にして、軽く咳払いをし、顔を引き締めた。

「まずは、諸国からの物資の流入状況だが…」

 その言葉に、書きとりの準備をしていたバブズは顔をしかめる。

「その程度なら、公国でも把握出来ている。」
「シーカー殿。私がここで、わざわざ公式の輸出入を口にするとでも?」

 エクセデスが、声のトーンを抑え、その不機嫌な顔を覗き込んだ。

「…まさか、密輸入の現場を見ておきながら、摘発も何もしなかったのか?」

 バブズの眉間の皺が、益々深くなった。エクセデスは、苦笑を浮かべる。

「シーカー殿が、街に行かれてもシーカー殿でしかない理由が、よく分かるお一言で。」
「…悪いか。」
「いや、大事な事だ。私の様に二面性を持つ様な人間には尚の事、振れる事無くあり続けてくれる存在というのは…。ただ、先程申し上げた通り、私はジャッジとしてではなく、シーフとしてそこに居りましたから、当然私の頭にあったのは摘発ではなく、あくまで数量の把握と行先、そして、それに関わった者達に足がつかぬ事。それとも、その他にあの場で何か、一シーフがすべき事があったとでも?」




 ―――後は俺の知ったこっちゃねーよ―――



 今、エクセデスが浮かべている不敵な笑みは、ジャッジよりもシーフとしてのそれに近い。
 相変わらず、不可解な男だ。先のウィルと今のエクセデス、一体どちらがお前の素なのだ、と聞いてみたくなる気持ちを、バブズは抑え込んで言葉を続けた。


 
「お前がそうやってしらばくれるつもりなら、私が取り締まろう………現場は。」

 白銀のシーフは、鼻を鳴らした。

「申し上げられませんな。シーフの世界で裏切りは、即ち死であると、まさか存じ上げぬ訳ではありますまい?」
「…っ!」

 国より己の保身を取るか、と思わず感情的に返しそうになった口を、バブズは無理やり閉じて言葉を探した。

「…だがそれはこちらに対してだって同じ事だ、エクセデス。お前のその密輸の黙認は、国への裏切りにはならぬのか?国の為、騎士としての威厳の為と思っても、申す気にならないと言うのか。」
「密輸入に手を出さざるを得ぬ者が居る事を知り、彼らを始め、今、民が必要としているものを把握する事が国の為、そして国と民に尽くすが騎士の威厳。全く矛盾しない上、双方への裏切りにもなりますまい。よって、全く申す理由にはなりませぬな。それに、シーカー殿は、先程『シーフ殿の手も借りたい状況だ』と仰せになった筈。」

 それとも、私の聞き間違いだったろうか?と、若いジャッジの笑みが深くなった。

「“頭領”も、私がこうある事を分かっているからこそ、私が国の者と知りながら、その現場を隠さぬのだ、シーカー殿。彼は貴方に、私を通じて、街の現状を知って欲しいと願っている。貴方も、そうありたいと思っていらっしゃる。私に、頭領を裏切らせるのは、その気持ちを踏み躙る事に他ならぬかと。」

 腕を組んでこちらを見下ろす、楽しげなその顔を、バブズは真っ向から睨み付ける。

「…ここで、私がお前の首を刎ねると言っても、申せぬ様な事か。」
「そのおつもりなら、今の時点でシーカー殿は、ペンではなく杖をお持ちでしょう?」

 思わず、自らが手に握っているペンを見てしまってから、ン・モゥの青年は負けたな、と肩で息をついた。まだこの騎士が少年だった頃は、二言三言で口封じ出来ていた筈、こんな問答で打ち負かされる事など無かったのだが。

「はぁ、呆れた。よく見ているし、よく口も回る。こちらが何を言っても、どうせそうやってのらりくらりとかわすのだろう…全く、出来るシーフだなお前は。」
「お褒め頂き、誠に光栄。」

 おどけて会釈したウィルは、さて何の話だったか、ああ、そうだと盤上に目を戻した。

「それで、話を元に戻したいのだが…この一カ月ほどで、目に見えて、武器の輸入量が増えてきている。国で消費する武器、徴兵した兵士達の分は公国で管理している為、この武器の取引先は、商人。最終的に民達の手に安価で渡るものと考えて、まず間違いないだろうと。」
「と、なると気になるのは内戦か。戦争になれば、治安が傾く。そうなれば彼らの矛先が向くのは私達か、異国より移り住んで来た者達だな。」

 バブズはため息混じりに尋ねる。

「実際、どの武器が、どれくらいの量取引されている。」
「刀剣類、とお応えできたならまだ状況が良かったかも知れんな。率直に申し上げれば、銃器類が、若者一人、その気になって稼げば買える値と量で売り捌かれている。」
「銃器類だと?」

 まぁ、まだ民の方まで市場が開拓されていない事、誰も彼も命が惜しいから、使う時はロウの効力化でエンゲージを行っている事が救いだが、とまで続けて、ウィルはバブズのしかめ面をそっと見下ろした。

 このルーンシーカーが、銃を「相手に間を与えず、一方的に」相手の命を奪う卑怯な武器として嫌っている事を、ウィルはよく知っている。そして、その考えに頷きながらも、実際はそれが第三者の綺麗事であって、一度無法地帯に入れば通用しない事も、また―――


「これがクラン関係者ではない、一市民の手に渡り始めれば、また話は変わってくるだろうがな。どうする、シーカー殿。」
「…すぐに兵を送れば、民の反感を買う事になる。出来るだけ、国が介入してきたと思われるのは避けたいところだな。だが行動は早い方が良い、エクセデス、」

 バブズは素早く一つの駒を握り、若いジャッジの手に握らせた。今度は放る事無く、しっかりと。

「民に最も寄り添う事の出来るお前にしか頼めぬ事だ。為政者同士でなく、一人の国を護る者として、クラン所属の冒険者、ワイリーに依頼したい。許される範囲であれば、どんな手を使っても良いし、出来る範囲で構わない。」




『お前のクランを使って、ベルベニアの治安を裏から保ってくれ』

 先の言葉を予測したウィルは、表情を硬くした。

 ―――自分と同じ境遇に、苦楽を共にした仲間達をも置けと申されるか―――




 だが、まさかその、怒りの言の葉を溜め込んだ自身の口が、

「銃器の流通の全てを防ぎきる事も不可能だろう。それでも、せめて民の多く集まるシリルは、”お前達の”あの街だけは、内戦から救って欲しい。」

ルーンシーカーの次の一言で、開いたままになる等とは。ウィルには、幼き頃より、心のどこかでルーンシーカーに対し、棘を抱いていたこの若きジャッジには、流石に予測不可能であった―――



「今、何と。」
「シリルの街を、守って欲しいと言ったのだ。ベルベニアには国兵が居る。だが、あの街は異国からも人が集まる国交の主要地、そこに兵の姿が目立ち始めれば、民がどんな思いを抱くか、シーフのワイリー殿ならご存知だろう?」

 ウィルは、手を開いた。白く小さな歩兵の姿をした駒。非力ながら、同じ立場の仲間と肩を並べ、敵陣をどの駒よりも真っ先に切り裂いて行く、「伝令」。



 ―――己の属する街を守るが、クランの意地と心意気だと聞いた。私にはまだ、クラン闘争が荒くれ者同士の喧嘩にしか見えん事もあるが、それがその意地故のものなら、私も目指す所は同じだと思ってな。蛇の道は蛇という、当事者じゃなければ分からぬ事も多いが、いずれ一つに繋がるのなら、私はそれら一つ一つを守っていきたい―――



(バブズ…)

 手渡された小さな駒を、ウィルは強く、強く握りしめた。その角が内側から、掌を負けじと突き返すのを感じながら。

 ルーンシーカーは、変わった。国の存続ではなく、もっと小さく、そしてもっと大きな物を守り抱く様になった。
 バブズの声を聴く内に、ウィルは自分の心の中で、ずっと絡まり続けていた何かが、スッと解けていくのを感じていた。

「だが恥ずかしながら、民達の動向を、その心の内を主観的に見る力は、まだ私には無い。どうしても、盤上から物事を見てしまうのだ。言い訳になってしまうが、長くこういう場に居ると特にな…。だからエクセデス、お前に頼みたいのだ。これから先、住人から銃器で利益を上げようとするクランがあれば…」
「一発ぶん殴って欲しい、と。」

 本人は笑いながら言ったつもりであろう冗談が、鼻声になっていたが、バブズは気付かなかった振りをした。

「…歯に衣着せぬ物言いだが、そういう事になるな。勿論、無理なら蹴ってくれても構わない。」
「いや、それなら相手も殴られる方がまだましかと…。あ、ああ、蹴るとはこちらの話でしたか。それなら普段から、我々クランがやっている事。断る理由がございません。」
「そうか、安心した。」
「ただ、」



 クランメンバー一人一人の顔、妹の顔、夜の砂漠に光を灯す、シリルの街の風景、そして地図上でこちらを向く、敵兵の駒、いずれその駒に向かい戦場に立つ事になるであろう自分自身…様々な思いが一気に膨れ上がり、ウィルは思わず天を見上げた。
 鼻を啜りながら、堪える様に目頭を押さえる騎士の次の言葉を、バブズは急かす事もせず、ただ待っている。



「ただ、シーカー殿。」

 赤くなった目をやや乱暴に擦り、ウィルはやっとの事で言葉を続けた。

「折り入って相談が……あるのです。」
「申してみよ。何だ、今ここで泣いた事を内密にしておく事か?そういえば、そなたは幼き頃、よくぐずって父殿を困らせていたな。」
「普段仰らない割には、ご冗談が冴えていらっしゃる。」
「最近、手本が傍に居るもんでな。」


 赤鼻のジャッジは歯を見せて笑むと、バブズの前にそっと片膝をつき、頭を垂れた。
 ルーンシーカーの瞳の中で、彼の青いマントが、白銀の鎧が、部屋の光を反射して玉虫色に輝いている。



「バブズ殿、」

 ウィルは言葉を一度切った後、小さく肩で息をついて、再び口を開いた。



 この度の報酬の依頼として、ジャッジ・エクセデスが戦地へと向かった後に、頂きたいものがございます。それが叶うのであれば、この依頼、喜んでお引き受け致しましょう…―――






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