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紅い爪 ← 揺れる繊月(前) → 揺れる繊月(後)


***** ***** ***** ***** *****



 

 魔石の効力が切れかかっているらしい。
 ちらちらと安定しない黄色の光の中、階段を降りる。




「あいつ、大丈夫なのか?」

 とっくに夕食時は過ぎており、人気の無くなった宿のバイキング。いくつかの灯が消されやや薄暗い中、まだ食事を取っていない主と自分、エメットの三人分の食事を、掻き集める様によそっていたベントンに、声をかけた者が居る。ワイリーだ。

 やや危なっかしく三枚の皿を持つベントンから、見てらんねーな、貸せよ、と一つ、引ったくる様にして取り上げた。


 すまねぇなぁーとのんびりした礼に、お前、腕は二本しかねーんだぞ、とため息を返す。
 本当は二つ持ってやりたかったのだが、片手に傷を負っている今は無理だ。












 まだ、この食堂が賑わっていた頃。ワイリーは、窓の外と時計を交互に見ていた。
 少し前まではチェルニーや、先日顔を知ったばかりのドメニコと他愛もない会話を交わしていたのだが、その彼が、「散歩に行く」と一人出掛けたまま、こんな、夜も濃さを増す時間になっても帰らない。

 チェルニーといえば、さっさと夕食を平らげてとっくに夢の中。クランで一人、ぽつんと宿の食堂に残っていたワイリーは、ひょっとしてこの雪の中、ドメニコが迷っているのではと気に掛かり、探しに向かった。






 そしてその先で、ウルフの群れの中で゛舞う゛、人を失った彼を見つけたのだ。


 冷たく透明な冬の月光の中、その鋭い爪先で、飛び上がっては獣を下から斬り上げ、地を駆けては横から斬り付け・・・どこか優雅にも見える殺戮を繰り返すドメニコとは対照的に、噛み付かれ、蹴飛ばし、引っ掻かれながら、その名を必死に呼ぶワイリー。

 何度か名を呼んだその時―――それまで敵を引き裂いて回っていたドメニコが、妖しく光る金色の瞳が、こちらを向いた。ワイリーの所までふわりと跳躍し、そこに食らい付こうとしていたウルフを引っ掻いて払うと、そのまま彼を抱えて雪道を宿へと、飛ぶ様に駆け抜けて行く。恐る恐る見上げれば、爛々と光る瞳が、ただ前を見据えている。何故かゾクリと怖気が這い上がり、辿り着くまでの間、ワイリーは声さえあげる事が出来なかった。




 形はどうあれ命拾いし、目的地へ着いた所で、ドメニコはようやくワイリーを下した。
 ところが、いざ帰還すると別の問題が浮上した。二人ともぼろぼろで無事とは言えない上、多少正気に戻りかけていたらしきドメニコが、建物の中に入るのを首を振って拒んだのだ。

 傷の痛みと寒さの中、どうしたものかと途方に暮れて立っていると、後ろから、何か重い物を取り落とした音に次いで

「ドメニコ!!ワいリー!!」

と悲痛な叫びと共にベントン、そして共に仕事に出ていたエメットが駆け寄ってきたのだ。
 ドメニコがベントンに付き添われ、そのマントの中に隠れるようにして部屋に戻った後、エメットの手荒な消毒と、ベントンの丁寧な包帯巻きが待っていた。








 それが、今から少しばかり前の話。










「結局、助けるつもりで救けられちゃったしさ・・・あいつに無理させたんじゃないかなって。色々。」

 気まずそうに頬を掻くワイリーに、ベントンはいんや、と首を振った。

「お前さんが居てくれたけ、ドメニコもけっぱれたンだっちゃ。今はちぃとだけ疲れてルけんども、すぐに元気さなるべ。ドメニコも、ワイリーにしっちゃもんだって伝えてけろって言ってタから、な?」

 心配さしてくれたんだべェ?おしょうしなぁ~と言えば、別にそんなんじゃねーよとの返事。粋がって、素直に見せようとはしないものの、根は優しい少年だ。
 気を悪くした様子も見せず、ベントンは優しくワイリーの手をとり、軽く擦った。

「ワいリーも、怪我さしてっちゃ、きちんと治さねェと。」
「ああ、うん。あの、あのさ・・・」

 何だべ?とにこにこしながら先を促されると、逆に言い辛いものがある。
 首を傾げるベントンの前で、うーんと唸った後、ようやく決心がついたのか、ワイリーは切り出した。



「聞いても・・・良いかな、あいつがああなってる事。」

 一瞬、真顔になって口をぐっと結んだものの、ある程度予測していた問いだったのか、騎士はすぐに頷いた。

「分がった。こっから先、話しといた方が良け事もあっぺな。」

 少しばかり、嫌な事や、みっだぐねぇ事さ聞かせるかも知れねェけんど、聞いてくれっか?と言うベントンに頷いて、ワイリーは席を促した―――



























 ―――雷によるものであろう炎が木立を飲み込み、その内にある小川と、まだ緑の見えぬ草地を円上に取り囲んだ。弱々しく降る雨を物ともせず、炎は次々と外側へと燃え広がっていく。
 耐えず地表がゆらゆらと揺れているのは、雨で濡れた傍から熱されて乾いていくからだ。




 ―――己の頭は、地面に吸い寄せられているのではないだろうか―――

 急速に遠退いていこうとしたベントンの意識を留まらせたのは、内気で虫も殺せぬ様な彼が、初めて宿した、身を焼き尽くさんばかりの激しい怒りだった。



 真っ向からキッと魔獣を睨み付けた少年兵の瞳は、揺らぐ炎を映した三白眼。
 その真後ろで、炎に焼き倒された木が、ミシミシと悲鳴をあげながら、深い足跡の残る、ぬかるんだ小道の上に伏してゆく。

 どうっ、という音からやや遅れて、ズザァと高く跳ね上げられる泥。後方から送られてきた熱風と火の粉が、ベントンの髪を一瞬だけ巻き上げて、上空へ舞う。
 ギリリッと歯を食い縛った音が己の頭蓋に響いたのに果たして彼は気付いただろうか。

 スッと剣を抜き、殺気を纏って一歩二歩と歩み寄る気配に気付いたのか、細い縦長の瞳孔が、その影を捉えた。轟と吠える獣。

 真正面から射る様に見据えたまま、両手で剣を構えると、ベントンは腹の底から声をあげて飛び掛かった。









 大きな前脚に真横に弾かれて地面すれすれを吹き飛ぶ体、素早く地に突き刺立てられた剣先―――その右斜め上に築いた体の軸を頼りに、ザザーッと右足元の泥を巻き上げながら、弧を描く様にして、勢い良く後方へ向かう力を減速させる。

 悲鳴を上げる体中の筋は無視し、無理矢理体勢を立て直した。地に引き摺った右足の布は擦り切れ、筋の様な傷には泥や砂が貼りついたが、そうした傷の痛みも、目の前の敵への恐怖も、沸き上がる激情に早々に飲まれていく。

 獣とベントンの間に残ったのは、剣先で付けられた三日月形の深い溝。

 その溝を掻き消すように真直ぐ突進してきた獣が、地に刺さる剣を乱暴に引き抜いたベントンを、更に後方へ、燃える茂みの中へと跳ね上げた。反動で右手から、するりと柄の感触が消える。

 背中から落ちた瞬間に、濡れた服とちろちろと火を燃やす枯草の間から、しゅう、と煙が上がり、ベントンの口から、吸い込むような小さい悲鳴が漏れた。
 背に感じたのは、衝撃と熱による突き刺される様な刺激。

 


 激しい痛みに震える半身を起こして見れば、手放した剣は、獣の向こう側、炎の中に落ちていた。
 パンサーは怒り狂って頭を振っているが、炎が恐いのか飛び掛かっては来ない。ベントンは、手元の焼けた土を一握り手に取り、ゆっくり立ち上がった。

 一歩、また一歩と歩み出し、少年が茂みから歩み出た所で、再び獣が動く。いっそ食い千切ってやろうと、その小癪な影に牙を向けた所で、熱い砂が片目に飛び込んできた。




 ギャオウという悲鳴の中、仰け反り、踏みならされる巨大な足と足の間を、ベントンは走り抜け、炎の中に右手を入れ、その柄を握り締める。
 業火に熱された少年の刃は、刃先からその根元まで、紅い火を纏って光っていた。






 向き直り、迫り来る体躯。低く、屈み込んで時を待つ。ガチリと咬み合わされた牙と牙。間に、その影は無い。

 風を切る音。上空からの気配に、頭を振り上げ、跳ね退けようとする獣。















 だが。




「おだづでねぇぇえええええっ!!!」




 少年はその鼻先を蹴って空中で一回転し、獣の頭に着地すると、張り上げた怒りの声と共に、その両手に握りしめた燃える切っ先を向けた。なおも猛り狂う魔物の眉間へ―――




「・・・・・・っ!!」

 耳障りな音、滝の如く身に降り掛かった生暖かな紅と鉄臭い臭い、崩れ行く獣の躯、ズドゥと泥を跳ね上げて地に伏す獣、柄から手を離し、飛び退る少年。
 広がる静寂、眉間に刺さったままの剣、瞳孔が開いていきながらなお、こちらをギロリと睨み付ける眼。

 そして―――その顔に駆け寄る、小さな獣。

 鼻先を母親に擦り寄せ、顎下に額を押し付けても―――動かない。起き上がって舐めてくれない。
 ミィは、母の首を加えて起こそうとしている。ベントンは何も出来ないまま、その光景を前に立ち尽くしていた。

 静寂の支配の中、両者に、やや雨足を強めた雨が無音で降り注ぎ、跳ね返って、彼らの輪郭を白く浮かび上がらせている。焼けた森と草むらから昇る煙が、その姿をぼんやりと霞ませていた。







「・・・うぅ・・・」

 今にも消えそうな程小さな呻き声にハッと我に返った。意識が本来の時を取り戻すと共に、雨音が、雷の猛る声が、帰ってくる。

「ドメニコ!!」




 駆け寄って、ドメニコの半身を起こそうとした彼は、

(何だべ・・・これは。)

目を疑う様な光景を目の当たりにした。





 ―――肉と共に大きく引き裂かれた少年の肩に、傷口からあのレッドパンサーの赤黒い血が、流れ出る少年自身の鮮やかな紅のそれと混ざり合い、吸い寄せられているというよりは、さらさらと、それ自体としては何の違和感も感じさせぬ形で、少年の傷に流れ込んでいるのだ。まるで流水の様に・・・―――

 それは、不思議でありながら、どこかおぞましい事の様にも思えた。
 何故そんな現象が起きているのか、ベントンにはまるで見当がつかなかったが、このままでは、彼が自身の血を失ってしまう事に変わりはない。ドメニコの半身を軽く持ち上げ、獣の血溜りから出来るだけ遠ざけてから、彼の纏っていた自身のマントで傷口を強く縛って止血した。
 だが止血が優先と言えど、急がなければ血を得られなくなった腕が、壊死してしまう。加えてこの雨だ。体温を奪われない様にと抱き抱えようとして、ベントンはハッとした。ドメニコの体温が恐ろしく高い・・・。


「・・・・・・?」

 体を動かされた事で僅かに意識を取り戻したのか、じんわりと汗の滲む顔がこちらを向き、ベントン?と弱々しく擦れて音にならない声を発した。焦点の定まらない両の瞳がベントンを見上げ、次いでその肩越しに紅い巨体と鼻を擦り寄せて、小さく鳴き続ける影を捉え、揺らいだ。

「ごめんなさい・・・」

 ドメニコが再び瞳を閉じた時、目尻から、涙が顔を濡らす雨粒で隠れる様に、すうっと伝って流れ落ちていった。

「ドメニコ!しっかりしてくんろっ!!」

 必死で叫ぶ声に何とか応えようとしたのか、

「ベントン・・・熱い、肩が焼ける・・・助けて・・・」

 眉の間に皺を寄せて、苦しげにドメニコは訴え、そのまま意識を失ってしまった。揺すっても起きる気配は無く、ただただ、苦しげな息だけが聞こえてくる。
 泣き出しそうになるのを必死で堪えながらドメニコを抱き上げると、雨と灰の中を、ベントンは一人、邸へと駆け戻って行った。



















 ―――その後ろ姿を、二人の忍びが遠くから見つめていた。
 追いかけましょうか?と一人が問い、もう一方が否、待てと応える。

 二人は、逃げ遅れた魚が浮かび上がる小川を飛び越え、ドメニコが倒れていた血貯まりへと駆け寄った。

「見ろ。」

 促されて、その血貯まりを見るものの、その意味が分からない。
 戸惑い、それが何か?と尋ねれば、見ろと言った方の忍びが、色の違う2種の赤が綺麗に混ざった部を指に取り、軽く拭った。

「固まっていない。分からぬか?血と血が、喧嘩をしていないのだ・・・我らが主様の計画は失敗した。だが、成功してもいる。」

 覆面の下でふふんと笑い、部下を振り返った。

「お前は、急ぎ戻って主様にこの事を伝えよ。私は邸に向かう。」

 ははっ!という声と共に、一人の姿が消え去った。






「面白いものが見られそうだ・・・なぁ、小さいの。」

 冷たい男の眼差しの先で、疲れ切った幼獣が、母の亡骸に付き添って眠っていた。
 








***** ***** ***** ***** *****




 ベントンの訛りは、訳さなくとも大丈夫でしょうか?(
 ちなみに、ドメニコやベントンが過去を回想する様な流れで進んでいますが、過去の話は過去の話で実話として独立しており、おそらくベントンがワイリー達に語った話はもっと大体な感じだと思われます。

 でないとこの話、最後の辺りでベントンがエスパーになってしまいますからね。

 ちなみにベントンとミィの母親が格闘していた時間は割と短い時間です。
 戦闘って、長い様で短いもんだと思ってます(←

 これから、二人を取り巻く大人達の間でちょっとどろどろした争いが起こります。
 ドメニコに取っちゃ迷惑で、面倒くさい話です。自分にも、面倒くさい話です。違う意味で。




 そりゃあ、飛び出して来たくもなるわなー・・・。

 
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