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追憶 ← 籠の中で → 紅い爪


***** ***** ***** ***** *****




 広い邸の中を、小さな影が一つ、壁から壁へと身を隠すようにして移動している。
 ひょい、と角から覗いた顔は、まだ十の歳になったか否かの少年だった。可愛らしい、という言葉のよく似合う瞳が、忙しそうに動いたかと思うと、再び物陰にすっ込んだ。



(こっち・・・だったかな?)

 産まれた時から住んでいる自宅とはいえ、まだ幼く遊びたい盛りの彼にとって、執事やメイドが歩き回っているこの赤絨毯の廊下は、見つかれば自室まで連れ戻される、見張りばかりの敵地の様な場所である。
 片時も気を抜けない中で、しかし彼は緊張とは別の、一種の高揚感によって顔が火照っているのを感じていた。それは、いつ見つかるとも知れぬという状況下で、不思議とその綱渡りを楽しんでいる、別の自分がいる様な気分だった。




(いけない・・・っ!)

 丁度進もうと思っていた前方からやってくる‘敵‘を発見した少年は、慌てて迂回し、身を隠した所でホッと安堵の息をつく。








「こげな所で何してんだべ?」
「・・・っ!!」

 突然降ってきた声に、驚いて振り返る。ただでさえ高鳴っていた心臓を、一気に鷲掴みされたと思う程、少年には不意の出来事だった。だが、彼は振り返って見て拍子抜けし、その場にヘタリと座り込みそうになり、相手はその様子に首を傾げつつも、その体をしっかりと支え直してやった。

 声をかけたのは、彼より少し年上とみられる少年で、剣技の練習でもした後なのだろう、少し汚れた簡単な作りの革鎧と、小振りながらも本格的な金属性の剣を身に付けている。
 目鼻立ちのはっきりした少年だったが、人の良さそうな表情が、全体の雰囲気をどこか丸みを帯びた様な、穏やかなものにしていた。


 幼い頃から共に過ごしてきた相手。お目付け役ではあるが、彼は自分の敵ではない。むしろ、互いに気心の知れた、少年の良き理解者であり兄の様な存在だ。
 少年―――ドメニコは、強張っていた顔にようやく、笑みを取り戻した。



「ミハエルに・・・会いに行こうと思って。」
「ミぃはえル?んダら、この先の・・・」
「しぃーっ!声が大きいよ、それにそこだと目立つ。」

 ドメニコは慌てて少年の―――――当時十歳のベントンの腕を引っ張り、人から見えない影に押し込んだ。ベントンは状況が飲み込めないまま、戸惑いながらも素直に隅に収まる。

「なァにも、そんなコソコソしねェで、執事さんさ、こどわってくれば堂々と廊下も歩げるし良いんでネぇの?」
「だってさ、僕がミハエルに会いに行くって言うと、母さん凄く悲しそうな顔をするから・・・。」
「まぁ、それは分からねェ話じゃねぇけど・・・」





 一見、おとなしそうに見えるこの貴族少年だが、彼の脱走劇はこれが初めてではない。特に数ヵ月前、彼の父親が妾との間にもうけた息子―――――ミハエルが産まれてからは、やはり兄になった事が嬉しいのか、その頻度は急激に上がった。

 幼なじみであり、騎士として家族代々彼らに仕え、自らもまた、生涯ドメニコを守護する立場のベントンは、その度に‘主’に付き合わされ、結局は二人で説教を食らうはめになっていた。それでも毎回、大人に言い付けもせず、断り切れずについて行ってしまうのは、忠誠心以前にその人柄の問題なのだろう。



「やっぱり、母さんはミハエルのお母さんが嫌いなのかな・・・。」

 ベントンは返答に困って一時、視線を他に移した後、再びドメニコに戻した。

 俯くドメニコが纏っているのは、前一列に並んだボタンや襟、袖口にレースの付いたもので、着ている者の身分を主張する作りになっている。

 ドメニコは正妻で貴族の娘であるメリィアンの子で、将来が堅く約束されている。が、もしその身に何かあれば、父親は世話役を母に持つミハエルを、メリィアンの子として据え置くであろう事は、邸内の者なら周知の事であった。正妻にとって、身分違いの子を認めるというのは大変な屈辱だろうという声も聞かれる。
 その辺りの事情は薄々ながら幼いベントンやドメニコも察している所だった。だが、ドメニコの母親に面識のあるベントンは、彼女が息子を身分維持の道具にしているとは、どうしても思えなかった。

(きっと、メリィアン様は、ドメニコが使い捨てにされねェか心配されてるだけに違ぇねぇ。)



 それとも、個の性格と己の権力を巡る想いは別の問題なのだろうか。

 両親がどの様に捕らえているかは分からないが、いずれにせよ、一貴族の子として産まれてしまった以上、ドメニコはその血筋を保つ他に道の無い人形に過ぎない。

 五つにも満たない頃から、王族や他の領主との顔合わせの為にベルベニアへと通い、己の意図しない所で彼らや領民からの尊敬や恨みを受け、もがき続けて行く人生。
 平民にしてみれば、丁度二人のいる廊下の様に、真直ぐで美しく装飾された様に見えるそれは、しかし実際に踏み込んでみると後戻りの出来ない泥沼の道だった。


 ひょっとしたら、ベントンは―――全く無意識の内に―――そんな人生を歩まざるをえない少年が見捨てられず、彼の小さな我儘に付き合ってしまうのかも知れない。

 そしてこの日も、彼は自然と声をかけていた。



「何かみぃんな難しい話さしてっケど、ミハエルはドメニコの弟なんダから、オラは会って構わねェと思うよォ?」

 それを聞いたドメニコが、スィと顔を上げた。

「本当?じゃあベントンも来てくれる?」

 微笑みながら頷くと、ドメニコはベントンの腕を掴みながら嬉しそうに飛び跳ねたかと思えば、はたと何かを思い出した様に動きを止めると、慎重に辺りを伺った。

「じゃ、行こうか。」

 今度は二つになった人影が、目的の部屋を目指して動き始めた。















 ---------奥邸の一室。

「じゃあベントン、しっかり見張っててよ?」
「承知ダす。」

 少年の小さな体は、誰にも見られる事無く、戸の隙間から滑り込む。
 この様にこっそりと行動している状況下にあっても、まだ八つになったばかりのドメニコにとっては遊びの一環らしい。たった今、会いたかった者の居る部屋に着けたのだから尚更だろう、その表情はとても楽しげだ。

 一方でベントンにとっては、例え遊びに付き合っている時でも、主の命令は任務として守らねばならないものだ。ドメニコが他の貴族との交流会に行き始めたのと同じ頃から、厳しい父親に心身共に鍛えられて育てられてきた少年。子供が戸口で真面目な顔で辺りを見回している様子は滑稽と言えば滑稽だが、それは父の教えがしっかりと身に付いている証でもある。

 だが、幼いドメニコは時としてそれを不服に思う事もあった。

(外で遊びたいな・・・。)

 それなら、ベントンも家来ではなく友達として接してくれるだろう。
 そんな事を思いながら部屋を見渡すと、窓から少し離れた所に安置されている揺りかごが目に入った。
 期待に高鳴る胸を落ち着かせようと、軽く深呼吸してから一歩ずつ慎重に近付く。

 そっと覗き込めば、ようやく金色の髪が生えてきたばかりの赤ん坊が、仰向けに寝かされていた。指をくわえ、やんわりと差し込む日の方をじっと眺めていた顔が、兄を認めてキャッキャッと楽しげに笑うと、ドメニコの顔も自然と綻んだ。

「抱っこしても良いかな?」

 独り言の様に呟くと、部屋の入り口に立っていたベントンが心配そうにこちらを見ているのに気付いた。おそらく、ナイフやフォークより重い物を持たせてもらえない生活をしている自分を気遣っての事だろうとドメニコは察したが、その事がかえって彼に幼い意地を張らせている事に気付ける程、ベントンもまた、大人ではない。



 敬愛する幼なじみに、頬を膨らませて外方を向かれたベントンは少なからず傷付いた様子だったが、ふと部屋の一角に積まれた衣類の中から聞こえてきた音に「何だべ?!」とすぐに真剣な顔で耳を澄ませた。
 ふてくされていたドメニコも、ガサガサと大きくなってきた物音に、不安を抱えたまま弟の籠にそっと覆いかぶさって振り返る。その先でベントンと目が合い、再び少年達の視線は、おずおずと音の方を向く。

「誰か・・・いるの?」

 誰かが邸に侵入したのだろうか、それとも使用人が自分を連れ戻しがてら少し驚かしてやろうとしているのだろうか。考えられるとしたら前者だろうが、いずれにしてもドメニコにはあって欲しくないケースに異ならない。



 が、

「なァんだっチゃ、お前さんはまぁた、こっソり部屋さ忍びこンでー。」
「・・・え?」

 飼い主さんさ、教えてもらったガ?エ?と、緊張を緩めたベントンがそこに優しい声で歩み寄っていくというのは、全くの想定外だった。

 彼は布の山を取り分けていくと、やがて、か細く啼いている何かを抱えて振り返る。腕の中にいたのは、まだ爪も牙も小さな、レッドパンサーの幼獣。


「なぁんだ、ミィか。」

 ミィと呼ばれた幼獣は、その名の通りみぃみぃと鳴くと、ベントンの胸をタンッと軽く蹴って、まだ呆けた様なドメニコの足元に転がりこんだ。

「驚かさないでよ。」

 力無く笑い、座ったまま抱え上げると、ミィは少年の頬に鼻先を磨り寄せ、その喉はゴロゴロと嬉しそうに鳴り始めた。

「懐いてンなァ。」
「うん、でも最初は部屋中逃げ回って大変だったんだよ。」

 ね、ミィとドメニコが獣の耳をくしゃくしゃと撫でると、瞳孔は細いが丸い双眼が応えるように見つめてきた。



「ベントンも、もっかい抱っこする?」
「いや、ミィはオラと遊ぶのは、まァだ慣れてねェがら。」

 遠慮するベントンにドメニコはミィを近付けるが、やはり野性の生き物だ。そう子供の思惑通りに皆と仲良くする筈もなく、全身の堅い皮膚を逆立てたパンサーは、ヒョイと両手の間を抜け、少年達が予想もしなかった方へ―――――

「あ、ミィそっちは駄目だよ!!」

 なんとミハエルの居る籠へと走りだしてしまったのだ。
 自分の上を飛び越える影に、驚いて泣きだした赤ん坊を宥めるのにベントンが歌い、パニックに陥って走り回るミィをドメニコが追い掛ける騒々しい音は、当然ながら部屋の外にも響いていたが、

「ねんねこー、ねんねこー、よい子はねェむうぅれーほーぃほぃ・・・」
「待ってよミィ!ねぇ何で逃げるの!?待って・・・!」

 今この状況で、彼らにそこまで気を回す余裕は、無かった。







 そのまま数分が経過し、ようやく立ち止まったミィの前で、ドメニコは膝をつき、次いでペタンと腹ばいになった。
 ただでさえ広い、この邸の一室を数分に渡って走らされたのだ。鍛練といっても護身術程度しか教わらない身に、この運動はきつい。少年は、自分より小さいこの獣が、どうしてこんなにタフなのか知りたくてたまらなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっと、やっと捕まえ、た、訳じゃない、けど、疲れた・・・」

 後ろからは、まだ鼓舞しの効いた子守歌が聞こえてくるが、ミハエルが泣き止んだ事もあり、歌い方にはゆとりと同時に喉の限界、歌詞のネタ切れによる疲労感が伺える。

 ・・・もしかしたら、逆の方が良かったかも
 ドメニコが今更の様に思った時、ガチャリ、と戸の開く音がした。




 

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 後書き

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