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籠の中で ← 紅い爪 → 揺れる繊月(前)


***** ***** ***** ***** *****






 コツコツ、という音と共に目前に現れたのは黒光りしている革靴。
 




「お遊びの邪魔でしたかな?ドメニコ様、アームストロング殿。」

 ドメニコが恐る恐る上体を起こして見上げると、白い髭を蓄えた執事が、座ってドメニコ達より視線を低くし、恭しく話し掛けてきた。

「・・・しっかり見張っててって、言ったのに。」

 かすれた声で呟くドメニコ。室内に、執事の笑顔と共に沈黙が降りる。
 子守歌は、いつのまにか止まっていた―――











 結局、その場にもう一人居た、メイドのまとめ役に仲良く諫められ、現在二人は

「ベントン、ミィ、川原行こう?!」
「あぁあンまり走ると危ねェよォ?」
「大丈夫ー!」

どういう訳か、外で遊んでいた。

 事の発端は、先程のメイドが「動物と遊ぶなら外になさって下さい!」と失言したのがきっかけであり、
 そこですかさず、ドメニコがミィを抱え、嬉しそうに彼女を見上げたのが好機となり、
 失敗に気付いたメイドが弁解するのを見ていた執事が、まぁたまには宜しいんじゃないでしょうかと進言してくれたのが決定打となり・・・

 ・・・様々な運や本人の努力が重なり、ドメニコは邸の敷地内―――と言っても、チョコボの群れが走り回れそうな野原や、小さな木立を含む巨大な庭園である―――に限ってではあるが、久々の外出を許されたのだった。







「全く・・・貴族の御曹子にしておくには勿体ない程やんちゃな方ですね。」

 ベントンの腕を引っ張り、弾む毬の様に飛び出していく背を見送りながら、今年で奉公暦三十年になるメイド長はため息をついた。
 隣で執事が、いやいや、そう気を揉みなさるなと微笑んだ。

「あれくらいが元気で宜しいでしょう。それで、あのモンスターの子供は・・・最近ドメニコ様とよく居る様ですが。」
「ああ、ミィは隣の領主様が、ヴィクトール家のご子息にと贈ってくれたそうですよ?何でも、その方とよく狩りに出かける狩人が仕留め損なった獲物の子供だそうで。」

「隣の領主様がドメニコ様に?母親が生きている仔パンサーを・・・?」

 眉を潜める執事。その領主が、ドメニコの父に贈り物をする程の仲だとは、ここ十年以上、聞いた事が無い。会えば礼をする知り合い、その程度だった筈だ。
 それに、母獣が生きているのに子を引き離して贈った、というのも気に掛かる。それ程深い傷ならば、獣は間もなく息絶えたろうし、わざわざ仕留め損なった、等と狩人に不名誉な事を言わせる必要も無い。


「ふぅむ・・・。」
「いかがなさいましたか?」

 散らかった部屋の整理をしていたメイドが見ているのに気付き、執事はいやいや、少し考え過ぎだった様です、と笑い、どれどれ、貴方も災難でしたねと、ミハエルをあやし始めた。






 もし九年前のこの時、彼がこの一件とミハエル誕生との関係、次いでその影に蠢く暗い思惑に気付いていれば、少年達はまた、今とは全く異なる人生を歩んでいただろう。










「見て!魚がいるよ!!」

 小川に駆け寄っていく、ドメニコと後を追うミィ、最後尾からゆっくり歩み寄るベントン。その小さな水の流れを前に我慢出来なくなったのか、脱いだ靴を綺麗に並べたドメニコは、ズボンを軽く持ち上げながら片足を突っ込んだ。

「ひゃえー!!」

 この時、季節はまだ雪解け水の流れる緑陽の月。少年の口から叫びがもれるのも当然の水温である。

「風邪さひくンでねェぞゥ。」

 ベントンの声に、平気ー!と応えながら、そのまま水の中へと踏み込んでゆく。歩くたびに足元の魚がパッと散っては集まったり、その中の一匹が誤って自分の足にトンッと当たる、くすぐったい感触、その全てが新鮮だった。







 天辺に雪を抱いた山地から吹く、肌寒くも穏やかな風の中で少年達が遊んでいた頃。
 邸の建つ広い野を囲む森の中で、一つの影が苦しげに呻いていた。

 ググググッと低い唸り声を洩らす口には鋭い牙が並び、その牙と黒い歯茎の間からは、痛みで口を開く度にボタボタと涎が流れ落ちた。それでも、影は立ち上がろうと四肢に力を入れる。その内、右後足には背にあるものと同じ、大きな飾り矢が刺さっており、その種にしては巨大な獣の脈に合わせて、少しずつ血と体力を奪っていく。

 もう数日間、何も口にしていない体は、皮膚が骨に貼りついていた。


 取り返さなければ・・・


 高い地位、広い縄張りを持ちながら、晩年になるまで子を授かれなかった。獣である彼女は、特にその事で何かを思う事は無い。ただ同じ事実が、本能としての愛を、それ以上に強めているのも確かだった。

 だが、この矢を射た人間に連れ去られてしまった以上、愛しい子の行方を知るすべが、彼女には無い―――――







「ドメニコ、遅くなっといけねェから、そろそろ帰んネぇと。」

 日が傾き始め、水が空を映して薄く橙に染まり始めた頃になっても、時々水から上がりながら、ドメニコは川原で遊んでいた。
 この時は裸足のまま、ベントンの横で休んでいたが、その言葉にハッとして起き上がった。次いで、小さく首を横に振る。


「まだ明るいよ・・・?」
「ンだけど、」
「もう少しだけ良いでしょ?」
「暗くなってクっと危険だカら、な?」

「やだっ!」

 突然の大声に気押されて、丸くなったベントンの目には、泣きそうな顔で怒る少年が映っている。

「今度いつ外で遊べるか分からないもん。」

 その彼は、立ち上がるなり再び川へと踏み込んでいく。帰りたくないのだ、とベントンは察した。邸の中では決して見せる事の無い、彼の思い。




「見て!ミィ、今そっちに魚連れてくから!」

 ベントンは自分を気遣って言ってくれたのだ、それは子供心にも理解していた。
 だが、ドメニコはぎこちない空気を振り払おうと、ベントンとは目を合わせない様にしてバシャバシャと川の中を歩き回った。すっかり慣れた様子で水飛沫を操り、魚を岸辺へと誘導すると、興味を引かれたのかミィも水辺へとやってきて水面を覗き込む。

 が、次の瞬間


「あっ・・・!」

 ザバッという音と共に頭上から水を被り、ミィはフゥと唸って跳び退き、いそいそと毛繕いを始める。

「だから言わンこっちゃねェんだァ。」

 水は、苔に足を滑らせたドメニコが、派手に尻餅をついた事によるものだったのだ。

「言わんこっちゃなくないもん!!・・・・・っ!?」

 膨れっ面で立ち上がったが、足に力が入りきらずに再び尻餅をつくドメニコ。
 と、やけを起こしたか、それとも一度濡れた事で迷いが無くなったのか、彼は突然水の中に背中から寝転んでしまった。

「何やってるダ!」

 ドメニコの突飛な行動はいつもの事だが、これでは冗談ではなく本当に風邪をひいてしまう。
 慌ててベントンは駆け寄った。

 が、

「えいっ!」

 冷たい水を顔面から受け、次いでドメニコの体当たりを食らい、結局先程のドメニコ同様、川の中に思い切り倒れこむ。
 何すんだべ、と困り顔で問えば、

「言わんこっちゃねェ!」

と彼に言ったばかりの台詞を元気良く切り返された。


「似てた?」
「こォりは一本取られたネぁ。」

 互いにびしょぬれのまま笑い合った。


 それからも暫く少年二人は小川の中を駆け回った。ベントンが川淵に咲いていた小さな白い花を見つけてきたかと思えば、ドメニコが両手で捕まえた蛙がベントンの顔に飛び付いてちょっとした騒ぎになったりもした。
 彼らが時を忘れて遊び回っている間にも、西の空が速度を上げながら、紫色に身を染めてゆく。



 ふいに、風向きが変わった。山から吹いていた風がまるで帰っていくかの如く、森の方へと行き先を変え、重い色をした雲がゆっくりと、だが目にも分かる速さで迫って来るのが二人にも見えた。









 ―――同刻。母の嗅覚が、湿った風の中に、我が子の匂いを捕えた。それとは違う、仇の匂いも。
 凝固した血で塗り固められた四肢は、気力だけでそちらへと歩み出す―――






 辺りも暗くなってきたせいだろうか、頬に当たる感触が冷たい。濡れて肌にまとわりつく服からも、冷気が染み込んでくる。
 やや不安げに空を見上げていたベントンは、隣で小さなくしゃみを聞いた。

「ドメニコ、さすがにもう帰ンねェと。それに、こら一雨来っぺナぁ。そげな事になったラ、みぃんなお前さんの事心配すっペ。」

 ドメニコもこれ以上は迷惑をかけると思ったのだろう、申し訳なさそうにコクンと頷いた。
 それを見たベントンは、「ンだ、体暖めねェと。」と、川辺に畳んで置いてあった、自分の見習い騎士用の茶色いマントを拾い上げ、ふわりとドメニコを包む。子供用で、二人の背丈はあまり変わらなかった為、全身をすっぽり、とまではいかなかったが、先程よりはずっと暖かかった。


「ごめん、有難う・・・ベントンは?」

 寒くないの?という意味だったのだが、彼は違う意味に捉えたらしい。

「オラはこのまんま行グと道さ暗くて危ねェから、邸までひとっ走りしでラんプさ取ってくる。」

 すぐ戻っカら、ここでミィと待っててけろ、とドメニコの肩を優しく叩いた。

「うん。」




 ベントンが走り去るのを膝を抱えて見送っていたドメニコだが、独りになって暫くすると、ふいに、心細さと情けなさが心の底に沸いてきた。

(違う、こうしたいんじゃない・・・。)

 いつも自分は、誰かに何から何までしてもらっている。執事やメイド、幼なじみのベントンでさえ、自分の為に訓練を毎日受けているのだ。口元まで埋めた濡れたマントから、汗と土、草の匂いがする。襟の辺りには鍛練中に傷でも作ったのだろう、微かに赤い跡もあり、ドメニコは堪らなくなった。

 たまに、一人でやると突っぱねてはみるが、結局の所その為の辷を何も知らない、出来ない己にひどく嫌気がした。今回もそうだ、と少年は思う。邸は目と鼻の先にあるのに、彼の優しさに押し切られ、今回も自分は待っているだけ。

「・・・。」





 やがて、ポツッポツッと雨が降りだした。慌てて近くの木の下に入り込み、小道のある林の向こうに見える邸の屋根をちらりと確認したが、その瞬間、見上げる小さな瞳の中に、葉に溜まった雫が滴れたか、雨よりも大きな冷たい一滴が入り込んだ。少し嫌そうに、ぐしぐしと目を擦る少年。

 雨の時に上を見上げるのは止めようと決めて正面を見ると、昼間、友と歩いてきた木漏れ日溢れる小道が、その時とは全く異なる、黒く、少年にとっては少し不気味な様相でたたずんでいた。
 暗く濡れた道は歩いた事が無かったが、現にベントンはその道を走っているのだ・・・ドメニコを安全に歩かせる為に。

 ドメニコはスクと立ち上がった。

「ミィ、行くよ。」

 呼べば、テテテッと頭を掻いていた獣がすっぽりと少年の腕の中に収まる。だが、どうしたことだろうか、ふいに茂みの方を見て鼻をひくつかせ、チィ、とドメニコが初めて聞く声で鳴いたかと思えば、今度は一変してその腕を振り払おうと暴れだした。

「っ!?ミィ!!」

 腕を無理矢理抜け出したミィを追おうとした瞬間、何かが立ちふさがった。
 少年の視界に、ボタボタと零れ落ちてくる―――黒々とした紅。


 コウとも轟ともつかぬ唸り声を上げた稲妻の逆光に黒々と浮かび上がったのは、巨大な体躯。



 グゥオオオオッ!!

「・・・・・・っ!!」

 ドォンっとすぐ近くに落ちたらしい雷の、腹に響く地響きと、光る瞳孔にこちらを捕えて獣があげた凄まじい咆こう、果たしてどちらが大きかったのか。





「あ・・・」

 甘えようと駆け寄った子が、驚いて跳び退く程に痛みと怒りで我を忘れた紅い魔豹は、少年へと鋭い爪を振り上げた。















「やれやれ、またお二人で遠出なさいましたか。」

 申し訳なさそうに縮こまっているその手に、そっとランプを渡してやると、かたじけねェだスと、しっかりとした返事が返ってきた。

「まぁ、そんな顔はなさらないで下さい。それよりお早く。このままでは二人仲良く風邪をひかれますよ。」

 執事の声にベントンが頷いた時だ。







 あ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァーっ!!






 尋常ではない獣の声と、恐怖だけではない、悲痛に満ちた子供の悲鳴が、暗く色付いた木立を越えて、遮る物のほとんど無い庭園中に響き渡った。

 部屋でミハエルをあやしていたメイドが、雷の音に泣き出したその赤ん坊を抱き締めて、何事かと窓の外を見やる。

「今の声は・・・ドメニコ様!?」








「な・・・、アームストロング殿、おおお、お待ち下され!!!」

 顔色を変えたベントンが、執事が言うよりも早く、ランプを打ち捨てる様に投げ、身を翻したかと思うや否や、大人でも素人ならとても追い付けない速度で走って行った。

















 足に幾度となくまとわり付くぬかるみを振り払い、元の場所へと駆け付けたベントン。だが―――遅かった。
 そこに在ったのは、前肢から頭まで、彼の背丈を倍にした様なレッドパンサー、


 そして―――その足元の血溜まりに転がる小さな体。

 先まであれほどころころと表情を変えていた顔、それが今は飛び散った血糊と汚れた髪で隠され、走り回っていた足は、稲光に照らし出されていながら、ぴくりとも動かない。
 殺意に満ちた獣からボタボタと落ちる赤黒い血と、倒れている少年の体から流れる明るめの鮮血が、その周囲で混ざり合い、皮肉な程鮮やかな紅を作り出していた―――――














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 後書かないよ。









 
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