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~若草とキャンバスと~





 ふわり、と柔らかく心地好い風が、廻ってきた季節を感じ取り一斉に咲き始めた花々の香を乗せ、エメットの座る丘を駆け抜けて行った。

 彼が一人腰掛けていたのは、四方に大きく枝を伸ばした木の根元。昼に差し掛かり強くなってきた陽射しも葉の間から零れ落ちるだけで、そのキャンパスをまばゆく照らす事は無い。




「えめとー。」

 自分を呼ぶ声に鉛筆を動かす手を止めると、すぐ横でポスッと何かが転がった音がした。
 見れば、幼いヴィエラが顔面から地面に突っ伏している。

「・・・。」

 描きかけの絵を置き、そっと起こしてやると、所々土で汚れた顔がそこにあった。

「んーん!」

 目にも少し入ったらしい。ぐりぐりと擦ろうとする小さな手を止め、黙ったまま、布で軽く拭いてやる。




「ぽりきれーになったぁ?」
「ああ、だがつ・・・」
「すごーい、のらはさんだよぉ!」
「野原、な。」

 次からは走るな、と釘を刺そうとしたのだが、子供の関心は移りやすい。既に転んだ事はコロッと忘れ、エメットのキャンパスを覗き込んでいる。
 そこには黒い鉛筆だけが使われ、それでいて線のみならずぼかしが入っているなど、繊細に描かれた彼らのいる丘があった。


 少女―――ポーリーヌがスケッチブックをめくっていくと、他にも野花や水鳥の親子、人々の絵などが次々と出てきた。
 中には何時の間に描き留めていたのだろうか、考え事に耽っている様子のドメニコや鍛練中のチェルニーの横顔、熟睡しているワイリー、何やら編み物中のベントンやその隣で熱心に本を読んでいるムジカ、口の端に薄く笑みを浮かべて原稿に向かうカロリーヌなど、クランメンバーを描いたものまである。

 ポーリーヌはそうした絵を見つけると指を差して元気良くその名を言い当て、その度にエメットは「ああ」だの「そうだな」だのといった、短い返事を返すのだった。




「ありさんもいる?」
「・・・まだ描いていない。」
「じゃーぽりがありさんかく!」

 言って、ポーリーヌはモルボルのポシェットから紙とクレヨンを取出し、エメットの絵の横に広げた。






 一人嬉しそうなポーリーヌの横で、軽くため息をつくエメット。

 子供は苦手だ。良かれと考えてしてやった筈が泣かれたり、何が楽しいのか分からない物に夢中になったりする。
 それだけらならばまだ良いが、時にはこちらの意見をしつこく求めてくる事さえあるのだ。

 ただでさえ誰かとふざけ合うのが苦手なこの狩人には、幼児の相手などとんでもない話である。同じクランのこの少女相手ですら、どう接すれば良いかまるで分からず、接触を出来る限り避けてきた。

 避けてきたのだが・・・。





「他の奴らはどうしたんだ?」

 いつもは、ワイリーかベントン、もしくは子供同士でミハエルと遊んでいる筈。

「とんちゃんはおかいものいったー!わいりーはみんなといるよ?」

「なら奴に遊んで貰え。」

 ここに居ても遊ぶものは何もないぞ、とそれらしい理由をつける。
 だが返事は予想外のものだった。


「だからぽりはえめとといるんだよー?」
「・・・は?」

 理屈の通らない五歳児の返答に、どうしたら分からず素で聞き返してしまった。





「わいりーはみんなといるからたのしいんだヨ?でもえめとはいつものらはさんでひとりだからね、それでね、ぽりがね、いっしょにいてさみしくないないダヨって、してあげるの!!」
「・・・そうか。」

 ここで他の誰かならば、有難うと言って笑いかけるくらいの事が出来るのだろうが、気の利いた言葉など、不器用なエメットには思いつく余裕などある筈もない。

 皆で居る事が大前提になっている幼児に、好きで一人で居るのだ、と言って果たして伝わるのだろうか。







「えめと?」

 途方に暮れていると、ポーリーヌが服の裾を引っ張ってきた。

「えめと、ぽりのこときらい?」

 今にも泣きそうな顔である。何故黙っているだけで、そう解釈されてしまうのだろう。内心、狩人は逃げ出したい気分だった。これなら、まだあの煩い猿の方が良い。

「好き嫌いの問題じゃない。」
「すききらい?ぽりおやさいもすきだよ?ぎざーるのサラダもね、たべられるようになったの。
 でもね、‘ちぇるに’はおやさいきらいなんだって。まほうつかいのくいもんだろ、っていってた。でね、どめにおやさいはまほうつかいのくいもんなの?ってきいたら、どこでおぼえたの?ってびっくりしてたー!
 でも、まほうつかいのくいもんがおやさいで、おやさいのくいもんはまほうつかい?ってきいたら、それはこわいねーって、もるぼるならそうかもってわらってタ。ねえなんで?くいもんってもるぼる?おやさいはまほうつかいのもるぼるなの?」
「・・・ほら。」
「ふにゅ?」
「蟻を描くんだろう?こうした方が描きやすい。」

 話の脱線に突っ込みたかったが、それで泣かれたら堪ったものじゃない。自分から興味を逸らす為にエメットに出来たのは、持ってきたスケッチブックを少女の持つ紙の下に敷いてやる事だけだった。




 ポーリーヌが喜んでグリグリと黒い固まりを描き始めたのを確認し、木にもたれ掛かると、やる事を失った右手を立てた右足に乗せ、ただぼんやりと辺りを眺める。

 春を迎えた今、人も動植物も―――魔獣でさえ心の踊らない者は居なかった。シリルに寄った時は、好んで来る場所だったが、やはりこの時期は活気が違う。春の陽気は生き物を浮かれさせるというが、この活き活きとした感覚を形にしたくて、今は毎日の様にこの丘へと通いつめている自分も、どうやら例外ではないらしいのだ。

 悪くないじゃないか、と感じている自分に気付いたエメットは苦笑した。いつもなら誰かと同じにされるのをひどく嫌っているのだが。





 時間にして三十分程だろうか、かなり長い時間をそのまま何かをする訳でもなく過ごしていたが、ふいに、左の腕に重みを感じた。何だと思えば、描き疲れたのか、それともこの陽気が睡魔を誘ってきたか、ポーリーヌが夢へと入っていく所である。

「…。」

 黙って見守っていると、やがて完全に眠り込んでしまった。
 羽を休めようとその垂れた長い耳に立ち寄った蝶ですら、少女を起こす事はなく、ただ、兎のそれに似た耳だけが―――ヴィエラの耳にしろ、獣の尾にしろ、どうやってそこだけ意識を保っているのだろうか、とエメットはいつも思うのだが―――軽くパタンと揺れて蝶を追い払う。

 当の本人は口を開けたまま規則正しい寝息をたてていたのだが、そのままズリズリとエメットの腕から滑り落ち、コロンと一回転して今度は膝へと―――エメットが頭を打たせまいと反射的に膝を伸ばした為―――仰向けに、しかも大の字で収まってしまった。回転した後だというのに、全く起きる気配を見せない。






 ―――ぽりのこと、きらい?

 やれやれ、と肩で息をつく。

 これで、逃げられなくなった、か。
 傍らに落ちていた絵をそっと拾い上げると、そこには巨大な蟻の他に、顔の大きなポーリーヌと自分と思わしき人物が飴を手に、黒い目と赤いクレヨンの大胆なUの字の口で笑顔で描かれていた。その上に青の波線があるが、水中という事だろうか。僅かに顔を上げれば、丘の向こうに見える湖が見えた。


 また、風がそよいで行く。
 彼のよく利く眼が、春風に撫でられてゆったりと、しかし大きく波紋を広げる湖面を捉えた。

「・・・・・・。」

 再び視線を絵に戻す。もしかしたら、ポーリーヌは、あの水底を思ったのかも知れなかった。
 絵を眺めながら、ふふっ、と浮かべた笑みは、嘲笑とは別の物だ。

 一応少女の絵の場面を想像してはみたが、現実主義者には最初から無理な挑戦だった様である。素直に諦めてその絵を静かにポーリーヌの横に戻し、エメットは自らのスケッチブックを手に取って開いた。

 ―――まだ真っさらな一枚のキャンバスを























「珍しいじゃねーか、お前がポーリーヌと一緒にいるなんてよ。」

 夕方になってようやくかかった声は『猿』のものだった。見ても良いなどと許可した覚えもないのに、相変わらず勝手にひったくって見ている。

「悪いか。」
「別に。お、上手く描けてんじゃん。」

 やや不機嫌そうなエメットの膝に転がっているヴィエラの少女が、そのままキャンバスにも転がり込んできたかの様な、ふんわりとした肖像画。

「本当、あいっかわらずよく寝るガキだよなー。」

 ほんとにのびのびしてやがる、と言って数ページめくったワイリーは、そこに似た様な自分の絵を見つけて顔をしかめた。エメットはしてやったり、と思ったのだがあくまで顔には出さない。




「・・・お前はどういう子供だったんだ。」

 子供の接し方に困ったエメットの口から自然に出てきた疑問。
 ワイリーはおや、と目を丸くしたが、そうだな、と答えを探し始めた。

「俺はなー、皆が見習いたくなる様な、素直でよい子だったぜ。」

 おい、そろそろ飯食いに行くぞーとポーリーヌをゆするワイリーを、自分で言うか、と白い目で睨んだエメットは、こちらを見てその顔にニヤッと浮かべた悪戯っぽい笑いに、その言葉にはどうやら続きがあったらしい事を悟る。



「ほよ?めし?」

 ようやく、ポーリーヌが起きてきた。

「ああ、今日はドメニコが奢るとか言ってるからな、旨い食いモン一杯食えるぞー。」
「くいもん?」
「食べ物の事だ。」

 忘れ物だぞ、とエメットから自分の絵を受け取るポーリーヌの眼が宙を泳ぐ。

「どうした?」

 ワイリーが聞き終わるのも待たず、顔を真っ青にして

「もるぼるがどめにたべられちゃうよお!!」

と叫んで宿の方へと戻って行く。







「あいつ、そんな崇高な趣味あったっけ?」

 事情が分からないワイリーの傍で、また一つ何か覚えたんだろうと、惚けるエメット。

 
「本人に直接聞いたらどうだ?」
「シバかれるから嫌だ。」
「賢明な判断だ。」
「何だよ、えらそーに。」

 ほら、とエメットにスケッチブックを突き返すと、ワイリーはポーリーヌを追いかけていく。
 焦る理由もなかったので歩きながら本をめくると、先ほど描いた絵が無い。



 ・・・まさか。







「あんまり走ると転ぶぞ。ほれ。」
「みゅ?」

 ワイリーから貰ったものを見て、ポーリーヌの顔がほころんだ。

「ぽりだよー!!」
「ああ、ちゃんと後ろのにお礼言っとけよ。」

 うん、と頷いて振り返る。

「えめっとさん、ありがとうーございますっ!!!」

 怒りで真っ赤な顔をして追いかけてきた少年が、毒気を抜かれて立ち尽くす。




「・・・ああ、元々お前にやるつもりで描いたからな。」

 それから早足でポーリーヌを抜き、ワイリーを抜きざま「シバかれろ。」と呟いていそいそと帰っていく。






「おー・・・。」

 何か感心したようにポーリーヌを見つめるワイリーと、エメットの絵をしっかり掴んだまま、小首をかしげるポーリーヌ。その体が突然浮かび上がった。ワイリーが彼女を肩車したのだ。

「本当にお前は良い薬だな!」

 ワイリーが勝ち誇った様子で称賛すると、ポーリーヌはきゃっきゃと弾けんばかりの笑い声をあげた。







 ―――――――――


「おっせーな。先に食うぞ。」
「そいだら、オラは皆の分取り分けてやっガ?」
「あ、お腹なっちゃった、ごめんなさい・・・。」
「・・・・・・。」
「どうぞどうぞ。ミハエル、気にしなくていいよ。しかし本当に何しているんだろうね。モルボルでも口にしたいくらいかも。」
「ドメニコさん、それはさすがにちょっと・・・」





「どめもるぼるだめだよー!!!」




『あ、来た。』









***** ***** ***** ***** *****

 


 拍手画面に、お礼として記載させて頂いていた小説です。
 エメット位の歳の頃は、大人に対しても子供に対しても接し辛さを感じる時期じゃないかな、と思います。

 妹の居るワイリーや、歳の上下をさっぱり気にしないチェルニーに比べ、潔癖で年下に接する機会も無く、昔から両親とクランの大人の中で育った宅のエメットは、それが極端になったんでしょうね。

 ちなみに、ワイリーの台詞は、過去の自分に対する皮肉です。その話は手紙編で触れていきます。



















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