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月が眩く光っていた、街頭が無くても歩けそうな程に。その光は、すっかり廃れてしまった街並みをも浮き立たせる。
「ったくあの騎士、けったくそ悪ぃ。」
勢い良くパンを食い千切ったのは、あのバンガの少年だった。数匹の鼠が、そのおこぼれを求め、闇に紛れて駆け寄って来る。
「そう言うな。食いモンは手に入ったんだから。」
「ま、ちゃっちいあんたのプライドが傷付いたのもよく分かるけどね。だけど、いくらなんでもしつこいわよ。さっきもチェルニーに愚痴っていたじゃない。」
彼と一緒に噛り付いているのは、ソルジャーとスナイパー -------人間の少年と、ヴィエラの少女だ。
「でも考えようによっては、良かったんじゃない?あんた、人殺しにならないで済んだんだから。」
「・・・まーな。」
でもな、言っとくが俺のプライドは小さくないぞ、と言い張る彼を、少女はハイハイ、と軽くあしらった。
「そう言えば、リロイ。ロルフが居ないけど?」
リロイと呼ばれた人間の少年は、最後の一欠を頬張りながら「そういや、いねぇな。」と辺りを見渡した。
目に入ってくるのは、人が住まなくなってから久しい痛んだ家や、枯れた雑草の目立つ花壇。
住み慣れた者でも馴染めない、死の気配漂う街-------ヤクト・ドルーザ。
「あいつならさっき、パン数本持ってチェルニーの所に行ったぜ。」
「数本?!何だよそれ!」
まぁ、そう言うな。まだ暫くは金もあるし、と宥められ、リロイは渋々頷いた。
「クポ~。食い物持ってきたクポ。置いておくクポ?」
「お、ロルフか。有難うな。」
小さな少年モーグリの視線の先に、人間族の若者が一人、片肘をついて横になっていた。こちらに背を向けている為顔は分からないが、よく鍛えられた体格であるのは、後姿からでも見て取れる。
「チェルニーは皆が食べ終わってからじゃないと、食べようとしないクポ、良くない事だクポ。」
食いそびれるクポ、というロルフに、人間族------チェルニーは笑った。
「気にするな。俺はお前らとは格が違う。空腹だからって早々死んだりしない。だから、人の腹を心配する前に、お前が食っとけ。」
「じゃ、お言葉に甘えるクポ。」
そうだ
強い光を宿した瞳が、眼下に広がる黒い街並みを射抜く。その様は、縄張りを守り抜こうとする猛獣そのものだった。
パンの欠片を頬に詰めた鼠が、そそくさとねぐらへ向かう。その最後尾の鼠が-------チィッと悲鳴を残して突如消えた。
月影の下に躍り出たのは、あばらの浮き出た猫。一瞬、チェルニーと目が合ったが、すぐに仕留めたばかりの獲物を咥えて走り去った。
そうだ、俺達はあの鼠や猫と同じ、喰うか喰われるかの瀬戸際に居る。気力を無くしたら最期、すぐ消されちまう--------
生きる為に手段は選ばない。窃盗、追い剥ぎ--------悪いとは考えない様にしてきた。善悪を問う余裕など、ヤクトの住人には許されない。
それが、親の顔も知らない自分達が唯一知っている手段であり、法則(ルール)である。
だけど、と若き戦士は思う。目を細め、月を見上げながら。
時々思うんだよな。
--------本当は、こいつじゃなくて太陽の下で生きてみたい--------と。
***** ***** ***** ***** *****
後書き・・・はそのうち。
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