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(4)← Ⅱ.眠れぬ獅子に捧ぐ祝宴(5) →転章


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「だ、誰か助けてくれぇー。」

 情けない悲鳴と共に、若い魔道士風の男が宿の食堂に駆け込んできたのは、それから丁度、二日ほど過ぎた時である。右手で戸を押し破る様にして入ってきた彼の体を、何事だと立ち上がった客の一人が受け止めた。

「お、おい…怪我してるぞ。」

 恐らくは一般客なのだろう、不自然にだらんと下がった男の左腕を見て慌てる客の隣から、静かな声がかかった。

「腕を外されただけだな、出血はしていない。命には…」




 客が声の方を振り返ろうとした瞬間、今度は食堂中に凄まじい音が響いた。勢い良く開け放たれ、その反動で閉まろうとした扉が、枠に収まりきる前に破壊されたのだ。

「なんだい、ありゃあ…。」

 「ひ…!」と小さく悲鳴を上げ、震えあがる男と、彼を抱えたまま茫然と玄関の方を見やる客に、再び声がかかった。

「気持ちは分かるが、傷の手当てが先だ。二階に部屋を借りてある、そこで休ませてやってくれ。既に怪我人の先客がいるが、そいつにエメットから聞いたとでも言ってくれれば…。」

「…へ?」

 視線を横にやれば、少年とも青年ともつかない年頃―――恐らくその丁度中間なのだろう―――の狩人が、部屋の番号が書かれた札をこちらに差し出している。中央には魔石がはめ込まれており、鍵の役割も果たしているものだ。
 場馴れしている落ち着いた声と、その主―――恐らく自身より二十は若いであろう狩人―――の歳との落差に虚を突かれ、客は「ああ、すまんな…」と手を出して、大人しく受け取った。

「すまんが、任せた。」

 振り返る事も無く人混みに分け行っていく背中に一言、おいそっちは…と声をかけようとしたが、腕の中の重みに己がやるべき事を思い出す。

「気をつけろよ…。」

軋む階段を踏みしめ、客は一階の喧騒を後にした。











 飛び散ったガラスの破片をギリッと踏みつけた厚い革靴が、気だるそうにそれを横へと払い除けて行く。

「あんた、人の店を何だと思ってる!弁償してもら…!!?」

 一連の所業を息を飲んで見つめていた店主の、ようやく口をついて出た言葉は、すぐにその喉元へぴたりと据えられた剣の先に封じ込められてしまった。その抜き身の剣の先で、油断なくこちらを見つめていた双眸が、ふと揺らいだ―――笑っている。


「何が可笑しい。」
「そんな消えそーな声で言われたって聞こえねぇよ。ま、心配すんな、ちょっと腹が減って気が立ってただけだ。」


 ドアくらい直しゃ元通りになるだろ、みみっちい事言うなよ、と声の主は剣を引きながら、明るく慰めた様な、それでいて半ば馬鹿にした様に笑いだした。が、ある一点を見つけ、スッと真顔に返る。



「随分遅かったじゃねーか。尻尾巻いて逃げ出したかと思ったぜ。」

 チェルニーさんよ、と視線を感じて不敵に笑ったのは、ワイリー。氷だけが残っているグラスを揺らして、カラカラと涼しげな音を立てている。ここ、砂漠の街シリルでは、体の火照りを取り、旅の疲れを癒してくれる貴重品だ。

(ま、夜に飲むとちぃとばかし冷えるがな。)

 グラスを持つ手が、僅かに震えている。恐怖故のものなのか、武者震いによるものなのかは分からない。ただ、コトリとグラスを置いて“奴”と視線を合わせた瞬間、不思議とそれは治まっていった。



「ふん、まさか。」

 先の陽気な声とは打って変わって、腹の底に響く様な低いドスの効いた声が、ワイリーの鼓膜を震わせた。

 煤で汚れた顔に光る眼差しは、見る者を貫き竦ませる、猛獣のそれによく似ていて―――成程、獅子と謳われるのもよく分かる。職業柄、実に様々な“瞳の表情”を見てきたが、これ程までに野生的な眼力を宿した“人間の瞳”は、己の記憶にはまだ無い。

 前回は暗かったせいで、力の強さだけを測るので精一杯だった。だが、と怒りに燃える瞳を真っ直ぐに見つめ返しながら、ワイリーは考える。
 今回は互いに互いの感情を探る余裕がある分、先読みもされ易い。体の反射だけに任せて動くのは命取りだろう。

 それが、吉と出るか凶と出るか。

(余計な事は、考えない方が良さそうだ。)





 チェルニーが、ダァンと大剣を床に突き立てた。木製の床を深々と抉ったその音に驚き竦み上がる客達の方を鋭く一瞥して、再びワイリーに向き直る。ワイリーは顔色一つ変える事無く、闘士の方を見つめたままだ。
 それをみとめたチェルニーの口角が、にやり、と上がった。戸の方に向かって顎を杓り、自身も得物を引き抜いて外へと出て行く。


 その背に続きざま店を出たワイリーは、戸口の所に腕を組んで立っているエメットを見つけた。

「ジャッジが、来ている。」

 エメットの視線を辿れば、いつものエンゲージで見慣れた騎士の姿が見える。
 その横で手配の対象となっているチェルニーが堂々とこちらを待っている姿は、極めて滑稽に見えたが、そう出来る様に手配してこの状況を作りだしたのは他ならぬ、ワイリー自身だ。恐らくチェルニーにも話は伝わっているのだろう。


「お前が頼んだ通り、今回ジャッジはエンゲージ以外の所には関与しない。お互い、勝利後に与えられる報酬も保証されている、命もな。…だが」
「わーってるさ。」

 エメットの言葉を遮り、険しい表情でワイリーは続けた。

「保証されるのは、最低限“死なない”って事だけだろ?それと、今のロウは俺にも奴にも、何の拘束力も無いもんばっかだ。俺達の庭ではあるが、あいつにとっても何ら変わりはねぇってな。」

 スッ、と腰の短剣を引き抜き、その重みを確かめる様に握り締める。

「ちゃんと体全部くっついている状態で帰ってやるから、余計な心配すんなよ?それよか、飯の準備だけ頼むぜ。」
「ああ。」

 全力で戦って来い、と送り出した背は、出会った頃よりもずっとずっと、逞しかった。







 ―――先に膝をついた者を敗者と見なす。両者、交戦開始!!

 ジャッジの戦闘開始の合図の後も、暫くは全く動きは無かった。一体そのままどれ程の時間が経過したのだろうか。まるで石化してしまったかの様に、二人は対峙したままだ。

 懐中時計でも持ってくるんだったな、とエメットは壁に寄りかかり遠くからその様子を見守る。その壁の向こう側からは、ようやく落ち着き始めた店内の様子が音や空気で伝わって来るが、それを向こうの試合の時間の流れと比較すると、まるで早回しをしている様だ。

 時魔道士でも紛れ込んだか…?

 だとすれば、早く向こうさんにもヘイストをかけて欲しいものである。…そう言えば、ベントンとあの男はちゃんと怪我人を助けてくれただろうか、と二階の窓を見上げた矢先、眼の端で何かが動いた。






 先に動いたのは、チェルニーだった。
 その大きな体躯が少し、前の方へと動いたのを確認し、素早く体を捩って左後方へとかわす。
 先までワイリーの体があった所を、左上から右下へ、片手持ちの大剣の一振りが掠めて行った。

 まともに食らっていたら、骨が砕けたでは済まなかったな。

 斬る、というよりも叩き潰す、という方が近い、重量武器から繰り出される、あの一撃。
エメットの頬を、冷たい汗が伝った。今己が感じている臓腑の重さを、今この時戦っている本人が味わう事が無かった点を思えば、考える余裕が無い、というのはワイリー自身にとっては、かなり幸運な事だったのかも知れない。


 相手が容易に避ける事はお見通しだったのだろう、振り下ろした勢いを殺さぬまま体を時計回りに回転させ、その途中で両手持ちに切り替えた闘士は、切っ先を正面に構え、

「ぉおおおおおっ!!」

 着地したばかりの獲物に向かって続けざまに突っ込んで行く。それを、今度は真横にかわした。だが。

「ちっ!」

 直接刃が当たった訳でもないのに、ワイリーの頬から朱が弾け飛ぶ。
 跳躍して、距離をとる戦法はチェルニーには通じない、それをあの初撃で学んだ。あれだけ豪快な攻撃をしておきながら、その後に動きを止める事を、あの闘士はしない。距離を置こうと跳んだ着地の、その瞬間の一瞬の間に、距離を詰められてしまう。
 ならば、必要最低限の動きで隙を作らず回避するしか、無い。

「まだまだぁっ!!」

 三撃目―――跳ね上げる動き。これもすんでの所でかわす、いや、かわした、と思った。
 脇腹に、じん、と痛みが広がる。剣先が掠った様だ。生温かさと共に、服がべったりとくっ付いてくる感覚から出血もあると察したが、痛みと傷口に気を配っている暇は全く無い。




 四撃目、五撃目と回避し続ける。全身にかまいたちで切り裂かれた様な傷を作りながら、ワイリーは時を待っていた。だが。

 …反撃すら出来ねぇ。

 無茶をしてくる相手に無茶はせずに、勝機を待てと、ベントンは言った。闘士が疲れるのを待つつもりでいたが、相手の体力は無尽蔵だ。体力でも腕力でも、勝る事が出来ずにいる。


 そろそろ二十撃目を数える頃だろうか。このままでは、防戦一方で負けるだけだと焦りを感じ始めた時、息継ぐ間も無く続いていた一連の流れが、止まった。







「ちょこまか逃げているだけが、てめぇの能かぁああっ!!」

 怒声なんて生易しいもの、と思える様なチェルニーの咆哮が、通りを震わせた。怒りが頂点をふっ切って、何かを焼き切ったらしい。そんな、声。
 その声と共に振り下ろされた一撃を避け、今度は大きく後ろに下がった。追撃の気配は、無い。

「はぁ、はぁ、はぁ…はは、だとしたら、なんだよ。」

 口に溜まった血を吐き捨てて、笑いかける。正直な所、傍から見ればその強がりは全く説得力の無いものになるのだが、どうした事か、その間の抜けた様な強がりが、チェルニーの怒りを煽ったらしい。
 腰を落とし、両手で剣を構えた闘士が、三白眼でこちらを睨んでいる。

「遊びのつもりなら、さっさと終わらせてやる。」


 来る、か。
 ワイリーは、ナイフを持つ手を、スッと下に降ろした。






「…まずい。」

 チェルニーの得物の周囲に生じた“気”の変化に、エメットは歯を食い縛った。つい声に出てしまったのは、言ってから気付いたが、だから何だと言うのだろうか。向かいにいるシーフは、もう動く気力すら無いのか棒立ちだ。そして、そこに打ちこまれようとしているのは、あの間合いから見て、ほぼ回避不能の範囲攻撃。

 もう勝敗は見えた、止めさせねば。

「かわせるもんなら、かわしてみやがれっ!!!波動撃っ!!!!!」

 チェルニーが、動いた。打ち出される気の波、それを追って手負いの獲物へと突っ込んで行く闘士。

 エメットがウィル、と声を張り上げようとした刹那、眩い光が視界を覆った―――






 誰が、遊んでいるだなんて言ったよ。俺はいつだって真剣だぜ?

 刃渡り50センチ程のナイフが、薄らと白い光を帯びる。
 土ごと街道の石畳を捲り上げながら迫って来る波動を真っ正面に捉え、ワイリーもまた、動いた。全身に強い光の気を纏わせて。

「セイントクロスっ!!!!!」

 二つの波動がぶつかり合い、大きな衝撃波が周囲を襲った。








(…なんだと。)

 信じられない光景に、チェルニーは目を見開いた。


 聖騎士の技を、何故お前が、盗賊が持っている。
 無音の世界の中、煮え滾っていた思考が急速に熱を失って、揺らいだ。

 波動を引き裂きながら、一筋の光が向かってくる。
 その中に、記憶の中で見慣れた壮年の、黒衣の騎士の姿が見えた―――



 相変わらず、てめーは気が短いな。命取りだと教えた筈だ



 真っ直ぐにチェルニーへと振り下ろされる大剣が―――







「…くそっ。」

 太陽を見つめた後の様だ。目蓋を閉じればまだ、光がちらつく両目を必死で開いたエメットが見たのは、肩で息をしながら満身創痍で立っているワイリーと、仰向けに倒れているチェルニーの姿だった。

「勝者、ちまきクランのワイリー!!」

 ジャッジが、高らかにエンゲージの終了を告げる。
 エメットが傍に駆け寄ると、ワイリーが得意げにへへっと笑みを浮かべ、拳を前に突き出した。ふ、とエメットも笑って、自身の拳で軽くそれを小突いてやった。

「だぁら言ったろ?飯の準備は出来たのか…よ。」
「おい!」

 ふいに傾いだ体を慌てて支えてやれば、そこにあったのは見慣れた寝顔。外傷は多いものの、それが原因で倒れた様ではなさそうだ。
 ふぅ、と息をついて転がったままの闘士を見やると、

「…。」

その眼はどこか遠くを見つめていた。傍に立つエメットや、気絶したワイリーにもその意識を向ける事が無い。悔しがっている様子も無く、ただ、ぼぅっと空を眺めているのだ。


(そういや、ワイリーが聖十字を発動した時には酷く驚いていたな…。)

 負けた事に衝撃を受けているのでなければ、魂抜けみたいになっている理由はそこか?とも思ったが、それ以上の事に別段興味も沸かないので考えるのを止めた。






「君は交戦者の仲間かな?付き添い、御苦労だった。」

 チョコボの手綱を引いて歩み寄るジャッジに、エメットは目礼を返す。

「貴方も。」

 ジャッジは頷いた。

「約束通り、“獅子に付けられた鈴”は外そう。だがこの者が新たに罪を重ねた場合は、新たに手配をとって然るべき檻に入れるので、そのつもりで。」
「分かっています。」



 テレポートで帰るジャッジを見送った所で、ぐぐぅ、とくぐもった低音が響いた。
 どうやらチェルニーの腹の虫だった様で、当の本人も驚いた様に瞬きしている。

「…食うか?」

 常に持ち歩いている干し肉の一つを内ポケットから探って差し出したが、闘士はぷいっとそっぽを向いてしまった。

「“貰った”物は食わねぇ。」

 プライドではない。食べられるものは、奪ったにしろ獲ったにしろ、自力で手に入れた物だけだと、教えられて育った。施し物への警戒感が、受け取りを拒んだのだ。

「買った、物なら食えるのか?」
「買う?」

 チェルニーが身を起こす。だがすぐに吐き捨てる様に言った。

「そんな金がどこにある。」
「お前が、自力で稼げば良い。指名手配もチャラになったんだ。ヤクトの暴れん坊の腕なら、どこでだって食っていけるさ。」
「お偉いさんの都合で指名されている“鈴付き”は、俺は狩らんぞ。」
「…仕事は色々ある、好きなのを選べば良い。」


 くそ、重いと罵りながらワイリーを背負った所で、今度は闘士から待ったがかかった。

「おい、そいつをどこへ連れて行く気だ。」
「どこって…宿に寝かせてやるんだが。」
「俺も行く。」
「ああ、好きにしろ……何だと?」

 一瞬、我が耳を疑ったエメットだが、信じられない闘士の言葉はさらに続く。

「そいつは、唯一俺を負かせた野郎なんだ。だから、俺はそいつに勝つまで離れる訳にはいかない。それに…金が稼げるなら、あいつらを迎えに行ってやりてぇし。」



 あいつら、というのはヤクトで活動を共にしていたリロイ達の事だろう。ワイリーには気の毒な話であるが、理屈が通った意見には個人的に好感が持てた。
 加えて―――仮に拒否して暴れられたらエメットには打つ手がない。現に今、目の前の闘士は落ちていた大剣を拾い上げ、その柄を手の中で弄んでいる。あの気性だ、返答次第では力尽くでワイリーを奪っていく事も、十分考えられた。


(こんな馬鹿猿のどこを気に入ったのか、理解しかねるが。)


 ご愁傷様、と背中のシーフに、心の中だけで同情する。だがここで、“結果を招いたのは本人だから”と、弁護してやる気を全く起こさないのも、この狩人がワイリーに非難される所以である。



「…自分の食い口はしっかり稼げ。後無駄な争いを起こさないでくれれば、他に異議は無い。」
「そっか。なら良かった。それ貸せ、運んでやるよ。」

 大剣を背の鞘に収め、闘士が近付いてきた。つと、背中の重みが無くなり斜め上を見れば、チェルニーがワイリーを摘まみ上げ、こんなチビがねぇ、と不思議そうにその顔を眺めている。

「おい、その持ち方は首が締まる。」
「ん?ああ、そうだな。今死なれちゃ困るんだった。」

 よっ、とワイリーを担いだチェルニーが、再び夜空を見上げた。



「なぁ、ここの太陽は、明るいか?」

 疑問符を浮かべているエメットに、チェルニーは見上げたままに言った、シリルの太陽は、ヤクトのそれより明るいか、と。
 
「ああ、肌が痛くなる位には。」






 ―――俺がどう生きようと、お前には関係ない。
 ―――だからどうした?俺はなぁ、もう日の下で生きる気はねぇんだよ。

 ―――だがな、お前は別だ。どこにでも行って、好きな様に暮らせ。その為に全て叩き込んでやったんだろうが。かんかん照りの太陽の下でも堂々と生きられる様によ。






「そっか、そいつは楽しみだな。」

 チェルニーが、笑った。心底、これからの全てが楽しみで仕方がない。
 そんな、豪快な笑い声だった。






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