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幌の中から

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 劇団の一日は、長い。


 朝、日の出前に起床して朝食を口にかき込む。公演期間なら、裏方達は舞台の最終点検に入り、俳優、女優達はそのまま衣装に着替え、化粧をし、ガタガタと動かされている大道具の横で声を張り上げながら、最後の練習を行う。
 短い二時間程度の物なら一日二回、五時間の超大作なら一日一度きりの公演だ。客が帰った後は全員での劇場の掃除が待っている。
 その後、各々のメンバーが舞台や客席、劇場となっている大型テントの外側等、好きな所に散らばったり、まとまったりしながら座り込んで日の入りと共に、早くて短い夕食を摂る。演じる者達は、そのまま休む間も無く空の舞台で明日の演技の調整に入るのだ。手の空いた裏方達は、その間に全員分の洗濯物など、生活面でのサポートを担う。

 もっとも、Irisのメンバー達が常にそうした過酷な環境下に居る訳ではない。
 一つの場所での公演期間は約二週間。その目の回る様な二週間の前後に、新しい環境に体を馴染ませる為の休息期間が五日ずつ設けられている。その五日の間、劇団員達の中には新しい街の一市民となって市場を散策する者もあれば、冒険者となってクエストに出かける者もあった。


「冒険者を演じるなら、現場を経験するのが一番よね。」


 頭上のリボンが似合う団長―――実は男だ―――の、方針により、Irisの団員は全員、何らかのジョブ資格を持っており、実戦経験のある者も多い。
 だが、彼らの本質は流れ人。公演が終われば、飛立って行く渡り鳥達。出自も年齢も性別も異なる者達が、チョコボの引く幌馬車で寝起きを共にし、新しい演目を、焚き木の傍で遊びとして興じ、歌い、笑う。

 そうして、次の町へ着く頃にはそれらが自然と彼らの体に染み込んでゆくのである。








 今日も揺れる幌馬車の中で、団員達は思い思いの時間を過ごしていた。
 幌馬車は二台有り、幌の中はそこそこの広さだ。総勢十五名の内、チョコボの扱いに長けたレンジャーのカロンと、セディ―――戦士の様な体格をしているが、術師だ―――の二名が御者を務め、残りのメンバーは俳優陣の九名と、裏方達にそれぞれ分かれて乗り込んでいる。
 役割毎に分かれて乗るのは、移動中に気まぐれな仲間達が、気まぐれな思い付きを、気の向いたまま提案し、話し合える様に、という団長の計らいだ。

 その劇団Irisの団長、サミュエル―――劇団衣装であるポンチョのモチーフは黒鳥―――は俳優陣の乗る幌で、新しい脚本について担当のヘンリーと協議の真っ最中。広い幌の前方で、何やら熱い議論を交わしている彼ら、そして彼らと自分との間で寝転がったり、本を読んだりしている他のメンバーを、団員最年少の少年グリア―――本人は早く卒業したいと願っているが、実際にはまだまだ子役が続くであろう―――ネフィシスはぼんやりと見つめていた。



「水でも飲むきゃ?」

 移動疲れでも出ている様な彼の姿を心配したのだろう、その目の前に白い革製の水筒――恐らく、チョコボの胃袋で作られている――を差し出した青年がいる。コリグリムだ。

 人懐っこい性格で、笑顔を絶やさぬ瞳の大きなこのヒュム族は、ネフィシスよりもずっと幼い頃から、彼が加入する前まで子役を務めていたベテランである。
 世話焼きな団長の影響からか、かなり面倒見も良い人物で、加入したてで訳の分からなかった頃のネフィシスに、始終忙しなく動き回りながらも「あれきゃー?これきゃー?それにゃー。」と舞台での動き、視線、声の出し方を優しく指導してくれたのは、ほぼ六割方コリグリムと言っても良い。


「すいません、頂きます!!」

 両手で水筒を受け取って喉を潤すネフィシスを、コリグリムはにこにこと見つめている。

 最近では、演劇だけではなく、狩人としての技術も教えてくれるこの青年を、ネフィシスは尊敬の念を込めて、密かに師と仰いでいる。歳を聞けば、自分が海賊としてカロンと海に出ていた頃、彼は産声をあげていたという事になるが、今現在、見た目も中身も、彼が年輩である事に全く違和感が無いのだから、ヒュム族は神秘的だよなぁ、とネフィシスはしみじみと感じていた。



「この辺りは河口が近いから、体中ベタつき易いし、潮風ですぐ喉も乾くよね。」

 それでも、ネフィシスには懐かしい風かな?と、コリグリムの更に向こう側に座っていたヴィエラの女性―――エステルが、幌と荷台の隙間から、外の風景を眺めて呟く。
 ネフィシスも、コリグリムもそれを真似て外を覗き見た。


 眼下には高い崖、その真下からこんもりとした緑が広がり、その向こうにはまだ小さく、白い石造りの町並みが見え、そして更にその遠方に大河、そしてそこから続く海の青い水平線が、ちらちらと日光を反射して、輝いているのが見える。

「あれが、白の街…。」

 ネフィシスはその眩さに思わず息を飲んだ。



 白の街、貿易都市バクーバ。
 これから一行が向かうバクーバは、クディウスとルテチア、連なる二つの山脈が築いた、オーダリア大陸北部へ続くフィヨルドの「西の大河」と、水源を大陸内陸部、遠くシリルに持つ「東の大河」、その二つの大河の合流地点にある大きな水運の街だ。
 街の建設物の大多数に石灰質の塗料が用いられている上、住人の大半がモーグリ族の為、街も住人も白く、それが「白の街」とも呼ばれる所以である。



「ええ、懐かしいです。水の色は、海よりも明るいですが。船もあるんですか?」
「あるよ。といっても大きなのは街中には入れられないから、河にしかないけれど。街中を水路が通っていて、モーグリの船頭さん達が、小船で包みやお客を運んでいるの。彼らにしか通れない道も沢山あるんだぁ。もう少し近くなったら、見えてくるんじゃないかな。」

 流石に、ここからじゃ“グリアの眼にも遠い”だろうしね、と故事を交えてエステルは微笑んだ。とある経緯から、自身をグリアと称されてもピンとこないネフィシスは、はははと曖昧な笑みを浮かべる。

「エステルさん、詳しいんですね。」
「あれ?言わなかったかな、私ね、イヴァリース公国出身なの。と言っても、ここよりずっと北東の方の、ミュスカデっていう街で産まれたんだけどね。親が交易していたから、一年の半分はここで育ったんだ。だから、私が飛空艇とか船とか好きになったの、大体この街のおかげって、こと。」

 街の様子はちょっと変わったけれど、ここの風は変わんないなぁと幌から身を乗り出すエステルを、首が持って行かれるにゃ、とコリグリムが引き戻している。




 街に着いたら、久々に船に乗るのも良いなぁ。
 ネフィシスの中で、海賊だった頃の血が、ほんのりと疼いた。

(もしかしたら、カロンやミューズさんも・・・)

 ネフィシスは、御者の居る方向を見やった。
 自分を育てた生粋の海のシークも、この海を見ながら何かを想っているのかも知れない。この幌の上に寝転がり、影を落としている異国のヒュムも、故郷の海を想っているかも知れない。両者とも、幌の中からは伺い知る事は出来ないが。

「カロン達が気になるなら、話してきたら良いんだなも。だんちょーはまだ長引きそうだし、今ならきっと、お互い良い気晴らしになるにゃー。」
「有り難うございます、先輩!」
「ございますはいいにゃあ~、気楽にして欲しいんだなも。」

 それと、とコリグリムは向かいに座り本を読む、もう一人の青年を見やった。

「エヴェレットも本ばっか読んでないで、こっちきて外みりゃあ。」




 仮面のオオルリ、エヴェレット。コリグリムの良き相棒であり、彼と団長、マコーレー以外、その素顔を知る物は居ないという、劇団の中でも謎多き男である。
 最も、その仮面という見た目とは裏腹に、普段は取っつき難さを感じさせない朗らかな青年で、舞台上では伸びやかで美しいテノールの歌声を放つ喉の持ち主だ。

 いつもなら、こうして相棒が誘えば「え?何々?!」と彼に並び外を見るエヴェレット…なのだが。

「………うん。」
「にゃあ?」

 いまいち、反応が薄い。相変わらず視線は本の上で、こちらを見ようとも、しない。
 コリグリム、エステル、そして水筒を口につけたままのネフィシスが、一瞬顔を見合わせる。





 次の瞬間―――


「にゃああああああ!!」
「わっ、何!?」

 コリグリムが、エヴェレットの肩を掴んで激しく揺すり出した。目に大粒の涙を溜めて。

「何にゃ!わいの事嫌いになったかや!!わいよりそんな本の事の方が好きかやーっ!!」
「ちょ、やめ、痛っ!」

 エヴェレットは、バスッバスッと後頭部を幌に強打している。強打、と言っても布なので大した痛手は喰らっていない。

「ベボラッタはわいの事をピン芸人にする気なんにゃあ…ぐすっ、わいエヴェラップと違って三枚目だから、ピンにされたら演劇人生終わりにゃあ!!」

 わぁわぁと泣きたて、幌の床に泣き崩れるコリグリムを、エヴェレットが打ち付けられた頭を擦りながら、やれやれといった顔で見下ろしている。

「いや、先輩かなり面白いから、ピンでもコメディで一幕やっていけると思うのですが。」
「私も。」

 ネフィシスとエステルが、コリグリムに淡々と突っ込んだのは、彼のこれが“演技”だとこれまでの付き合いで知っているからだ。
 勿論それは、

「…俺もそう思う。」

相棒のエヴェレットもである。
 だが半分呆れている外野に比べ、こちらはそう言った瞬間、まるで何かの義務を思い出したかの如く大真面目に正座までして、相棒の肩を掴み、「グリムならきっと出来るよ」と大きく頷いている。力強く。




「ああ、馬鹿レット…貴方はどうして―――」

 エステルが呟いたのも束の間、

「おみゃーがそれを言うにゃあああ!ひどいにゃ!禿げろにゃ!!おみゃーなんか幌で頭擦って禿げてしまえ!!!」
「やめろ、痛いっ!!グリム分かった落ち着け!!」

コリグリムとエヴェレット、名コンビの“茶番寸劇”が再開された。

「ネフィシス、子役はああやっていつでも涙を流せないと務まらないよ。グリムの後継者なら覚えておきなさい。」
「え、あ、あれを見習うんですか。というかお二人とももう、」


 ―――笑ってるじゃないですか。





「ええい!魔竜ゲルランドの手下コリグリムめ!その顔、もっと三枚目にしてくれる!!」
「にぎゃああっ!くさいにゃあ!!」

 エヴェレットが足の裏でコリグリムの顔を押し、脹れっ面になったその顔を指差して笑うエヴェレットの頭を、今度はコリグリムが奪った本でパスンパスンと軽く叩いている。

「彼、元気出たみたいだね。グリムも分かっているというかなんというか…」
「え?エヴェレットさん、元気無かったんですか?」

 確かに、さっきはちょっと様子がいつもと違ったけれど…と、小声のエステルに小声で少年は返した。

「オーダリア公演が決まった辺りから、何か気乗りがしなかったみたいで。飛空艇じゃ、何話しかけてもさっきみたいな感じだったし。団長もグリムも、ずっと気にかけていたっぽいよ?」
「団長も?…俺全然気付きませんでした…」


 幌の前方に居る団長を見ると、騒がしくふざけあっている二人をちらっと見てにこりと笑い、またヘンリーとの話し合いに戻っていくところだった。一方の脚本家ヘンリーが、名コンビの立てる騒音に、やや困った様な顔を浮かべているのと比べれば、それを物ともしていない団長は、流石といったところか。
 ネフィシスは、視線をエステルに戻した。

「まぁ、ネフィシスはまだエヴェレットとそんなに話せてないし、これから分かる様になるよ。ともあれ、これで一安心かな。ここも暫く騒々しいだろうし、ミューズ達の所、行っといでよ。」
「はい!」




 少年は、喜んで幌の外側をよじ登って行った。
 が、暫くして幌の後ろからひょこりと逆さまに顔を出し、

「ミューズさんが『グリムの煩いがあって、私の眠るをことごとく阻止している。静かにして下さい』だそうですー!」

と叫んで、唖然とするコリグリムの周囲に笑いの渦を巻き起こしたのであった。







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