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~Theatrical・Masques~
 




 春風そよぐ港町、獲れる魚も春の味覚が目白押しなグラスの港。そこの倉庫街のコンテナ広場跡地に風にはためくテントが現れた。人が住むような小さなテントではない。船のように大きなテントだ。黒く聳えるテントの裾には刺繍が入っている。今は昼、奥で人の気配がするものの、うごめいていて表に出てくる様子が無い。その様子はまるで何匹もの蛹が夜に向けて脱皮の準備をしているようにも感じられた。チコはパブの二階の窓からそれを双眼鏡に映し、満足して今夜着る服の用意に勤しんだ。


 退屈な昼は過ぎ去り、やっと夜、チコは履きなれたハイヒールを鳴らしながら一人ハンドバッグを手に劇場に向かった。そう、劇場とは昼間現れた巨大なテント、そこに他ならなかった。演劇を見るときのマナーは男女のカップルがそうだが、一人で気軽に観るのもなかなか乙なものである。公開初日のチケットである。これを手に入れるために、情報屋と何でも屋にどれだけお金を積んだか……まあそんなことは瑣末なことに過ぎない。今夜を精一杯楽しむだけだ。紺のドレスの裾を翻し、肩にかけたガスマスクを揺らしながら、チコは入口のモギリの少年に声を掛けた。チップを渡しながら淡い笑みを交わす。

「あら、グリム君、お久しぶり。チケット手に入れるのも苦労したわよ。」
「にゃー、チコさん、いい席取ったにゃー!三列目のまんにゃかじゃないかにゃー!いつもご贔屓に、ありがとうございますだにゃー。」
「最高の演技を観せて貰えればそれでいいのよ、期待してるわ。じゃあ、また中でね。」

 
 
チコがチケットにより指定された席に座ったときには、もうお客がぽつりぽつりと集まり始めていた。この席が満席になるときは早めに来るだろう。クロークに預けた薔薇の花束を、物語に酔って劇場を出る前に渡すことを忘れないように……チコはその香りを思い出すように息を吸った。あと三十分で開演だ。チコは劇場の雰囲気が好きだ。何が起こるかわからない。古代の仮面に隠された喜怒哀楽、ロマンス、侘び寂び。劇団Irisのレベルはチコのお気に入りどころか、どこの町でもアンケート上位に食い込むだろう。


 
この日の主演男優はエヴェレット。いつも仮面をつけている、青魔道士。それしかわからないが、演技の腕が確かなことは確定済みだ。チコも一目置いている。彼は劇団Irisの花形に短期間で収まった。彼の仮面を外した姿は、誰にも知れ渡っていない。チコは自らが所属する仮面のクラン、マスカレイドクランに彼を引き入れたがっている。もちろん本心からではない。エヴェレット本人は劇団Irisにあってこそ輝くものだと知っているからである。


 今日の演目は『怪盗ゼロ』、仮面の彼にとって、はまり役になるに間違いなかった。昔、イヴァリースを駆けた義賊、その正体は今でもわかっていない。それ故、彼を題材とした創作は今でも絶えることは無い。


 上演。怪盗ゼロが正義を騙る三人組に追い回される第二幕、その終わり、エヴェレットは見た。席の中央の通路になっている場所……その背もたれの後ろから黒子の手が伸びて、太ったマダムのハンドバッグを持ち去るのを見た。あまりにも自然な手さばきに、エヴェレットの台詞が一瞬遅れる。何事かとざわめきだす観客達。それを見ていなかったコリグリムは不思議に思い、エヴェレットに劇を続けるように大きな目で促す。エヴェレットこと怪盗ゼロの台詞が、去る黒子を追いかけるように被る――「覚えていろ、再びそれをわが手中に取り戻してやる」


 
舞台がはねて団長はマダムに平謝りだった。頭のリボンが落ちるのではないかとそこにいる団員全員が心配する中、グラスの自警団が到着した。盗難届を出してその夜、控え室。
 
「明日の公演はどうしましょうか。」とエヴェレットが悔しそうに呟く。団長はじっと黙って考え込み……サルマとナターシャがあの黒子の行方を捜索中である。今晩には犯人を突き止められたら、と二人を送り出したのだった。
 
と、ドアをノックする音がする。ルイーズがドアを開くと、ドアの枠一杯に大きな薔薇の花束が現れた。薔薇の香り芳しくその後ろからチコが現れる。

 「お花、遅れちゃって……みんなここにいるってネフィシス君から聞いたので……何かお取り込み中でしたか?それならすぐに出ますけれど……。」チコはお得意様リストに載っている。それにチコの所属するマスカレイドクランは、劇団Irisとも共同戦線をとった仲にある。なのでネフィシスは通したのだろう。
 
最初の目論見どおり、チコは劇に感激して、持ってきた薔薇のことを忘れて宿を取ってあるエシャロット亭に帰ってしまった。部屋の鍵をカウンターで受け取った瞬間、劇団のクロークに薔薇を預けっぱなしだということを思い出した。なので、クローク担当が困る前にとあわてて戻ってきたのだった。初日から遅れた、萎れた花束なんてかっこ悪い、そう思って、控え室まで乗り込んできたのだった。


 
団長は思い切ってチコに経緯を話す。客席側からの犯行についての状況を把握したかったからだ。それにマスカレイドクランは口が固くて有名だ。覆面で何でも黙ってやる。
 
「ああ、それであの時、エヴェレット君の台詞が一瞬止まったのね。」とチコは納得がいったような面持ちで瞳を閉じた。
 
「明日も同じような盗みが行われるかもしれないわね。」辺りは沈黙に包まれた。
 
「あの辺りの席に誰が座るのか……誰が狙われるのか……。」団長サミュエルは言葉を濁した。沈黙は続く……。
 
「そうよ!うってつけの人物がいるわ!この前手紙が来たのよね。」とチコが声を上げる。
 
「誰なのかにゃー?」コリグリムが不思議そうに首を傾げる。チコはじれったそうに矢継ぎ早に声を繋げる。
 
「あの子予定があって二日目しか席取れなかったって書いていたわ。通路を背にした五列目よ!」
 
「天然っぽく見られているから、絶対狙われるわね。」
 
「絶対って……。」エヴェレットは二の句を継げない。
 
「アイドルなら尚更よ!大スキャンダルだわ。何かお金になるようなものを持っていそうだし……親衛隊も両脇にいるって話だし、大丈夫、彼女が傷つけられることは無いわ。」目を白黒させる周囲も気にしてない風にチコは言い放った。

 


 
次の夜、シークとモーグリを従えたヴィエラが、待っていたチコの前に現れた。夜なのに大きなサングラスをしている。チコはガスマスクを取り出して一瞬顔に掲げる。お互い、サングラスを、ガスマスクを外して笑みを交わした。後ろの追っかけ君、追っかけ君Jrは全く無視して開幕まで世間話に興じた。
 
今夜のチコはピンクの薔薇色のドレス――髪の色に合わせて染められた特注の一品だ。これでひと暴れしようとというのか。対するエヴェレットは黒のベルベットのマントに紫紺のスーツが似合い、白い仮面を一層美しく見せている。先ほど到着したヴィエラの彼女はラベンダー色のふわっとしたドレスを着、実のところ太ももに投げナイフを仕込んでいた。チコも大きな本を抱えている。二人ともそれを見せ合って、悪戯っぽい笑みを見せ合った。


 
昨晩の出来事はグラス中に広まっていた。しかしながら名高い劇団Irisの劇を見ようとする者は多かった。貴重品を預けるクロークは荷物で山積みになった事は言わずもがなである。ヴィエラの彼女は前から五列目の通路を背にする場所に座り、耳を垂れ、パンフレットに見入った。もちろん、手荷物は……アーチ型の背もたれから手の届く場所だ!
 
劇は進み、昨晩の盗みがあったシーンにさしかかった。皆が固唾をのんで舞台を見守る。皆、舞台しか見ていない。舞台から正面を見ているエヴェレットは、あの黒子の影を認めた。全ての出入り口には、劇団Iris・マスカレイドクランの共同の防御が張られている。どうやら犯人の黒子は客席から出たようだ。通路側の席からいつの間にか黒子の頭巾を被り、廊下……観客の後ろに回った。黒子は先ほどのヴィエラの後ろの席に回り、手を座席の隙間に入れ、彼女の席から、ハンドバッグを奪った。


「ポーリー!」
「ファイダ!」


 
その呪文を嚆矢に、特設松明に火が着く。会場内は途端に明るくなり、黒子の姿をありありと照らし出す。ポーリーとファイダは演劇用の三大呪文としてメデオと共に知られている。
 
席には振り返ったヴィエラが仁王立ちして、黒子の輪郭をナイフで捉える。服をフォークリフトの台でできた、絨毯を引いた板に打ち付けられた黒子は、ナイフを外そうとしてもがいている。そこへチコのマジックバーストが黒子の脳天に炸裂する。黒子は気を失い、すぐに劇団Irisのセディとイアンによって連行された。

 
「はぁ~い!アルエットですう!これからもラブリーボイスをよろしくねっ!」と、ラベンダー色のドレスを着たアルエットはその名の通り、ひばりのような声で囀り、一人用の決めポーズをびしっと決めた。追っかけ君と追っかけ君Jrは感動のあまり泣いている。

 
「キャー!今回は特別に、ラブリーボイスのアルエットさんをお招きしましたぁ~!皆様、ご安心して演劇をお楽しみくださいねっ!」団長の明るいアルトの声が、ゴーグで買ってきた拡声器によって劇場に響きわたる。

 
歓声。再び会場は暗さを取り戻す……エヴェレットにスポットが当たった。「小悪党は大盗賊には勝てない!私利私欲の為なら尚更!」彼はマントを翻して舞台袖に戻り、万雷の拍手が会場を包んだ。幕には『二幕終わり 休憩十五分』と書いてある。その後の演劇はトラブル無く進み、五度のカーテンコールを経て、観衆は満足して帰っていった。

 


 楽屋では、荒縄で巻かれた黒子が暴れていた。座りながらもがく様は空中浮揚でもしそうである。
 
「もう一度どつくわよ」とチコが壁にもたれて腕組みをしながら言うと、犯人は動きを止めた。分厚い本をちらつかせるチコに、明らかに怯えている。何をどれだけ白状させるかと考えているうちに、エヴェレットたちが楽屋に入ってきた。チコは用意していたリモベリーティーを勧めながら犯人の居場所を視線で知らせると、エヴェレットや団長たちは頷いた。
 
そこへアルエットが「てへ、遅れちゃった!今日の舞台、良かったね!」と入ってきた。
 
いよいよ犯人の口だけを自由にしてやる時が来た。黒子の頭巾を剥ぎ取り、猿轡を外してやる。ぷは、と一息ついた犯人は、ン・モゥのあまり素早く無さそうな若者だった。
 
「どうして、俺たちの劇団を困らせるようなことをしたんだ。」エヴェレットは押し殺したような声で尋ねた。が、犯人は頑として口を割らない。
 
この黒子の衣装、どこかで……と、チコが一つ一つ考えるように言葉を紡ぐ。
 
「そうね、これは。」
 
「そうだわ、これって。」団長とチコの声が重なる。


 
アルバトロス劇団。劇団Irisが発足する前は、劇団の中では十本指に入る位の人気を博していた。が、劇団Irisの人気と共にその存在を忘れられていった劇団だった。観念して語りだした彼によると、今回の犯行は個人の勝手な犯行であり、劇団Irisの評判を地に貶める作戦だったようだ。これで全ての点が線になった。自分の在籍するアルバトロス劇団の人気を上げようと独自に犯行を行った彼に、サミュエル団長は顔を向ける。
 「いーい?貴方、劇に対抗するには、やっぱり劇でなくっちゃあダメよ。貴方が演技力や魅力を磨いていけば、自ずとファンはついてくるのよ。」その言葉に犯人は涙した。

 

 
腰に縄をつけて犯人のアジトから昨晩の盗品を引っ張り出させる。その品をマダムに明日劇団Irisの方から渡す手筈にしていた。クロークの強化と出入り口の番人については、人員の足りない部分をマスカレイドクランに頼む事にした。二度とこのようなことが起こらないよう、心配の無いように劇団Irisのメンバーは手を回した。
 
犯人を自警団に渡して、劇団Irisのメンバーもアルエットもチコもほっと一息つく。団長は、
「マスカレイドクランとラブリーボイスの皆様には、次の公演の初日、一番いいエリアの席にご招待するわ。」とウインクした。


 
別れ際、エヴェレットとチコは一瞬見つめあった、碧の瞳と銀の瞳。
 
「チコさん、貴方、社交界のどこかで……。」それはチコが目を伏したことによって遮られた。
 
「私もわかっているわ、貴方の正体。でも言わないでおくわ、だから貴方も何も言わないで。」肩から下げたガスマスクで顔の半分を覆う仕草をするチコ。
 
「そうですね、人生だって、一つの劇のようなものでしょうからね。」エヴェレットも、鳥の仮面のリボンを結びなおす。
 
「余計な気回しはお互い無しってことね!これからも舞台楽しみにしているわ、エヴェレット君、またよろしくね!」今度はアイリスの大きな花束を持っていこうと心に決めているチコであった。


 

 

Fin.


 

***** ***** ***** ***** *****


 


 虫日日殿から頂きました、マスカレイドクランのチコさんと、当家劇団Irisのエヴェレット、仮面を被った者同士の交流小説です!!初めて頂いた文章での贈り物に、陽さん大興奮でした!

 劇団に関する資料も少ない(準備出来てなくて、非常に申し訳ない;!)中、凄く研究して書いて下さったんだなぁとまず拝読して感じました。宅のともすればヘタレ気味なエヴェレットを、名俳優に描いて下さって…っ!!とても嬉しいです*
 劇場内部の雰囲気とか、演劇用魔法の呪文とかの設定もツボでした。メデオ気になる…使われたら迫力がありそうな。ラブリーボイスのあの人も、ゲスト出演だと?!

 そしてそして。
 演劇好きのチコさんが、Irisの常連さんとは恐れ多い!!Iris、おまいら下手な芝居は出来んぞ気を引き締めろ(・ω・´)!
 …最後なにやらチコさんとエヴェレットの過去に、何やら伏線がある感じなのもニクイ!
 これはやるしかないだろう、クロスオーバー…!!!

 …許可、頂いちゃいました。有難うございます、虫殿。頑張ります!
 素敵な小説を送って下さった虫殿と、犯人に華麗なフィニッシュを決めたチコさんに、感謝と敬意を込めて(・ω・)ノノ!




















 

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