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Letter
1

***** ***** ***** ***** *****
 


「こちらに―――様はいらっしゃいますか?」

 突如として呼ばれた名に、どきりと体が反応する。
 幸い、周囲の人間は皆出払っていて留守だ。その事に一つ、安堵と感謝のため息をついて、彼は扉をほんの少しだけ開けた。向こう側に見えたのは知らない顔だったが、この場合は知っている顔が覗くよりもずっと気楽だと、心のどこか遠い所で思う。

「配達を請け負ったクランの者です。―――様ですか?」

 恐らくはこの手の仕事に慣れているのだろう、こちらが怪しんで何か尋ねる前に、どこで受けた仕事か、それは何日前かといった事を簡潔に説明してくれた。

「―――は、私だが?」

 その返事を聞いて、配達人がホッと肩の力を抜く。しかし、すぐに飛んできた「依頼主は?」という質問には、ハッと顔を上げ、それからやや困った様な様子で言った。

「申し訳ありませんが…御依頼主様はパブの方で明記されてなかったので、私どもは存じ上げないのです。」

 まぁ、そういう仕事もあるだろう。自分も、そんな誰の頼みかも分からない依頼をいくつも受けてきたから、薄々事情は察してやれる。だが、特に後ろめたい様な生き方もしていない自分宛の手紙で、依頼主不明とくれば…。
 黙って差し出した手に渡された封筒を裏返してみれば、嫌な予感が的中し、顔が凍り付く。差出人は、己にだけ分かる形でしっかりと示されていた。

「…証拠として要求されたのは?」
「拇印を。」

 やはりか、と沈んだ気持ちを抱えながら、渡された羊皮紙に親指で朱を押せば、配達人は一礼して去って行く。
 静かに閉ざされた扉の内側で、クシャリと紙の握り潰された音だけが響いた。









「おい!そっちに追い込んだぞ!!」

 怒声にも似た闘士の声に撃たれる様にして、ミハエルは茂みから飛び出した。

「わぁ!?」

 そんな行動はお見通しだと言わんばかりに、逃げてきたキャピトゥーンの小さな足が、空振りして前のめりになった少年の後頭部を、いっそ鮮やかな程美しく蹴り飛ばし、後方へと駆けていく。地に伏したミハエルの耳に、闘士――チェルニーの舌打ちが聞こえた。



 一方、順調に追手を交わしていた小さな獣は、ハタとその足を止める。
 前方に、火が見えた。あれは、熱くて危ないものだ、と本能が告げる声に従いクルリと身を翻せば、そちらにも、火。数歩下がって横に走れば、そちらにもまた火が灯り、彼は困惑して後足で直立した。髭と鼻先を細かくひくつかせて周囲を探っていると、一か所だけ、燃え上がっていない部分が見えた。




「来ますよ。」
「ああ。」

 半眼のまま俯き、杖を握りしめている仲間の心には、どんな情景が浮かんでいるのだろうか。
 今その答えを知っているのは術を発動させる為の陣を張っている本人と、少し遠く――その陣の内側で身を震わせている獲物だけだ。

(まぁ、特に知りたいとも思わんが。)

 自分は狩人だ。眼に見える物事がしっかり見えていれば、それで良い。吸うのに九秒、吐くのに七秒。見えざる物を操る術師の、ゆったりとした呼吸音を聞きながら、大弓を引き絞る。
 真っ直ぐにこちらへと向かってくる影。矢は放たれた―――






「いや、あれは本当にあり得ねぇよ。」

 言葉程には怒っていない、あっさりとした口調で自分への感想を述べるチェルニーの横を、すっかりしょげかえった様子でミハエルが歩いている。その両手に抱えられている金属製の籠には、捕獲を頼まれた、あのキャピトゥーンが収められていた。網に捕まり、暴れた為に毛皮はボサボサだが、直接射抜かれた訳ではないので怪我は無い。小さな前歯で脱走を試みようと、先程から金網を齧り続けている。

「相手の速さと自分の速さを視野に入れて動くべきだったな。目の前に獲物が来てから動くのでは判断が遅過ぎる。」

 チェルニー同様、率直な意見を口にしたのが、もう一人―――一番後ろを歩む狩人である。
 本人としては見たままを分析して述べただけで、問い詰めるつもりは全く無かったのだが、僅かにタイミングが悪かった様だ。
 ぐりぐりと袖で目元を擦りながらしゃくりあげ始めたミハエルを見て、「何故泣く?」と困惑した表情を浮かべている。

「お二人とも、もう少しハードルを下げてあげて下さい。」

 御自身を基準にされたのでは、まだ荷が重いですよと、苦笑したムジカが少年の肩を優しく叩いている。疑問符を浮かべて首を傾げる闘士の横で、エメットは長い長い溜息をついた。

「客観的に見て、俺がそう思っただけだ。」

 眉間に皺を寄せて、彼は二人の傍に歩み寄る。

「結果的に仕事は成功したんだ。元々練習のつもりで来ていたお前が気にする事じゃない。」

 こういう時、あのシーフやパラディンなら、もっと上手い言い回しが出来るのかも知れないが、とエメットは思った。どうも自分の言葉は鋭過ぎるらしい。だが、そうだと言われても他にどう言えば良いのか。
 自分の言葉を前向きに理解して飲み込んで貰えない相手を、エメットは大の苦手としているのである。

 今度も悲しいほどフォローになっていない上、ともすればますますミハエルを追い込んでしまったのではないかと危惧していると、こちらを見上げる充血した瞳と目が合ってしまった。

「…。」

 そこから何か声をかけようと口を開いてはみるものの、次に言うべき言葉を一つも見つける事が出来ず、結局口を閉ざしてしまう。
 …限界だ。

「帰るぞ。」

 つとミハエルから顔を逸らし、逃げる様にして歩き去るエメットに、なんだあいつ、腹でも空いたのか?と全く見当違いな予測を立てたのはチェルニーだ。

「おし分かった!お前ら!帰ったら食うぞ!!」

 言うが早いかチェルニーは、ポカンとした表情で狩人の背を見送っていたミハエルの手から、キャピトゥーンの籠をひょいと取り上げた。
 一瞬で籠の消えた腕の中を見、次いで遥か頭上に移った籠を見て、慌てて取り返そうとするミハエルだが、彼の背丈では長身のチェルニーに届く筈も無い。


「食べるって…何をですか?」

 事の成り行きを見守っていたムジカが、ギギギと首をチェルニーの方に向ける。
 経験上、もはや嫌な予感しかしないのだが、念の為聞いておかなければ……。

「え?こいつ、食う為に狩ったんじゃないのか?」

 ああ、やはり…と脱力しかけて、ムジカは急いで否定した。

「ち、違いますよ!!その子は依頼主さんが『野生のキャピトゥーンが飼いたい』と仰っていたから捕まえたんです!!!」

 食べてしまったら今までやった事が水の泡じゃないですか、というムジカの説明は、半分が闘士への説得になっていた。チェルニーの口から出る事に、良くも悪くも「冗談」は一切無いからだ。殴ると言えば殴り、寝るといえば寝る、そして食べると言えば食べるのである、この闘士は。
 現に、キャピトゥーンとムジカとを交互に睨みつけながら、「飼う?」と、まるで今初めて聞いた単語を復唱する様に呟いている。

「飼って太らせるのか?食った方が早くね?」
「で、ですから!依頼を完了させれば、そのキャピトゥーンがベヒーモステーキ一人二皿分にはなるんです!!」
「…本当か?」


 一気に言い切ったムジカに、突然神妙な顔になったチェルニーが問う。
 今まで必死で籠を取り返そうとしていたミハエルも、その中で暴れていたキャピトゥーンも、その空気に何かを感じて大人しくなった。

 ムジカの背に、嫌な汗が伝う。
 一匹の命、一クランの食費の有無と、それを決定付ける一人の闘士の意思判断が、この瞬間にかかっている。あえて言うならば、一幻術士の無事も。


「ええ、本当ですよ。ですから、ちゃんと報告しに行きましょう?」

 下手な誤魔化しはチェルニーには通用しない。幸いにも、ムジカが言っているのは押し並べて真実だった。
 その目に嘘は無い事を認め、チェルニーはにぃと笑う。



「二皿じゃ足りねーけど、こいつよりマシか。…よし!ステーキ食うぞ!!」
「わぁ!?」

 片腕でミハエルを抱え上げると、キャピトゥーンの籠を、緊張からの解放で崩れ落ちそうになっているムジカへと押し付け、上機嫌で坂道を駆け下りていく。不安定な状態でかかる重力に、思わず上げられたミハエルの悲鳴もすぐに遠のいていった。

「え?ちょ、ちょっと待って下さい!!」





 ムジカの制止の声も聞かずに走っていたチェルニーだが、大分先まで進んでいたエメットに追いついた所で、ふいに足を止めた。

「なぁ、」
「…?」

 怪訝そうに振り向いたエメットの足元にミハエルを降ろし、チェルニーはたった今、とても良い事を思い付いた、という様子で言った。絵に描きたくなる様な爽やかな笑顔だ。

「俺、後二皿食いたいからもう一匹捕ってくるわ。」
「おい、」

 何を、何故。そして俺の傍に子供を置いて行くな。
 言いたい事はまだあったのだが、すっかり頭が野生化した闘士は、既に茂みの中だ。どうしたものかと、隣で目を回しているミハエルを見ていると、息を切らしつつ、ようやくムジカが追い付いてきた。



「ムジカ、チェルニーの奴は何をあんなにはしゃいでいるんだ。」
「あ、ああえーと…今回の依頼は報酬が大きいですから…キャピトゥーン一匹でステーキ二皿は食べられますよと言ったら大喜びされて…。」





 『俺、後二皿食いたいから』
 『もう一匹捕ってくるわ』




「…。」

 これで全てが繋がったが…とエメットは頭を抱える。

「どうかされましたか?」
「ムジカ、ミハエル。あれは無制限に獲物がステーキに化けると思い込んだ様だ。」
「ええ?!依頼は一つだけですよ?!」

 ムジカの叫び声を聞きながら、エメットも同じ様に叫んでやりたいと思った。
 …今この林のどこかを駆け抜けているであろう野生児に。

 分かっているさ、と力無く頷いた狩人は後ろに居た二人を見た。これからの事を考えて落ち込むムジカの横で、ようやく眩暈の収まったらしいミハエルが、瞬き一つして彼を見上げる。


「奴がもう一匹捕まえる前に、全力でチェルニーを追うぞ。でなければ、ここに居る全員分の夕食が消えるからな。」






   


***** ***** ***** ***** *****

 


 獅子の扱いは慎重に。




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