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(1)← 北方の聖騎士(2) →(3)


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「ほら、注文の品だ。落とすんじゃないぞ。」
「へーへー。」

 マスターから酒の入ったグラスを二つ、手渡された。そんじゃ戻るかな、とワイリーが振り向いた時だ。


「あ!」
「・・・っ!」

 ダンッと誰かに肩がぶつかり、酒が双方の服にかかった。

「言った傍から・・・」

 マスターは呆れている。





「あはははは、悪かった・・・・・・な。」

 相手を見上げたワイリーの顔が強張った。ぶつかった相手が---聖騎士、つまりパラディンだったからだ。


 高い鼻筋と、整った目鼻立ち。背の低いワイリーが見上げると首が痛くなるような長身の青年が、同じく事を把握出来ずに固まっている。

(やっべー…)


 パラディンといえば、王宮やら貴族やらに仕えている、守護騎士や神殿騎士に並ぶ高位職だ。それなりに良い家柄出身の為か、プライドが高い者が多い事も、ワイリーは過去の経験からよく知っていた。
 そんな連中に飲み物をぶっ掛けたときたら、高くつく所の話ではないだろう。





 が。
 次の瞬間、聖騎士についてのワイリーの---世間一般のイメージを大きく崩す出来事が起こった。




「大丈夫だがー?怪我は無ぇが?」
「へ?」

 事態を飲み込めていないワイリーの前で、いそいそと手拭いらしき物を取り出すパラディン。
 そのまま、片膝をついてワイリーの肩についた染みを拭き取り始めた。

 自分と青年の身長差からそんな姿勢になったのだろうが、これでは母親に汚した口を拭いて貰う赤ん坊の様だ。想定外の事に混乱しながらも、彼は青年を止めようとした。


「あの・・・」

 自分で拭くからいい、と言おうとしたのだが先読みされたらしい。

「マンドどがァ、厚い布地の服は一旦汚れが染みになったら水じゃ落ちねェがら、早ぐ拭かねェといぐねェんだよ?」
「・・・。(すっげー訛ってる)」





 麗しい外見と、その地方言葉が恐ろしく食い違った聖騎士は、

「まスたァ、悪ィけどこれ、水さつけて絞ってくんねェが?」
と、どこに持っていたのかもう一枚、青い手拭いを取り出した。

 隅にデフォルメ化されたレッドパンサーの刺繍があり、”Domenico”と縫い付けられている。




(こいつの名前か?)


 まぁそうなんだろう、特に変わった事でも無いと、あまり気に留めなかった。ただ、彼ほどに成長した若者が持ち歩く品としては不自然さを感じただけだ。

 ワイリーがあれこれ考えている間にも、青年はこれ以上無いほど丁寧に汚れを落としていった。尤も、拭かれる側はその間ずっと、カウンターに来る客の目にジッと耐え続ける羽目になったが・・・。




「おい、何時まで人を待たせる気だ。」
「お、大分綺麗になったべー。あどは濡らしたトコさ、乾けば元通りだァー。」

 痺れを切らした狩人が来たのと、パラディンがまるで自分の事の様に嬉しそうな顔で、ワイリーの肩を叩いて立ち上がったのは、ほぼ同時。
 相手を綺麗にはしたものの、彼の白いマントには、紫色の染みがすっかり出来上がってしまっていた。




「・・・。」

 こいつ誰だ、と目で訴えるエメットに、ワイリーも黙ったまま、視線を転がったグラスに流した。

 ため息をついてそれらを拾い、詫びの言葉と共に店主へ返す。


「ったく、お前は。」

 エメットとしては、ワイリーに不満を洩らしたつもりだったのだが、その言葉に項垂れたのは騎士の方だった。

「オラが手際さ悪いから、手ェかげさせて・・・」
「えっ!いやあの・・・今のはこの馬鹿に言っただけですから。」



 ワイリーが睨んでいるのを感じたが、即その頭を押さえて下げさせる。抵抗はあったが、軽い。
 謝られた騎士は、目を丸くして首を振った。


「あああ、頭下げるなんてよしてけろぉ。オラがボサッとしてたのがいけねェんだから・・・」

 おや?とワイリーは首を傾げた。どうやら彼は、自分の方がワイリーに当たったのだと思っているらしかった。



「そうなのか?」
とエメット。口では問い掛けているが、誤魔化すんじゃないぞ、という意味が込められている。シーフは、知らねぇよ、と肩を竦めた。




「あとこれ・・・」
『?』

 二人が何だろうかと思っている間に、騎士は財布を取り出して、2、3枚の硬貨をワイリーの手に握らせた。



「飲み物代さ、使ってぐれ。」
「や、こんなにいいっす・・・」

 ワイリーが言い終わるのを待たずに、パラディンはパブを出て行った。本来、ある筈の無い模様の出来てしまったマントが、哀愁を誘うように翻りながら遠ざかっていく。



「あの染み、落ちないだろうな。」

 その背をガラス戸越しに見送りながら、エメットが呟く。
 一方で、ワイリーは手の中の硬貨をぼんやりと眺めていた。例え、互いの不注意だったにせよ、自分だけ綺麗にして貰った上に、代金まで渡されたのだ。何となく、申し訳無い気がした。






「なぁ、おっさん。」

 彼は硬貨を出し、「一番安いの二つ」と注文しながら、マスターに声をかけた。

「おっさんはやめろ。何だ?」
「今出て行った奴について何か知らねえか?」

 マスターは顎鬚を撫でながら、先ほど騎士が出て行った扉の方に目をやった。

「ああ、あのパラディンか。ルテチア峠の方から来たとか言っていたな・・・事情はよく知らないが、金が必要になったとかで稼ぎに上京してきたんだそうだ。」

(ルテチア峠・・・あの雪山の向こう側か・・・)
 足の脛まで雪にはまる道。普段は穏やかだが、時として牙を剥く山の吹雪。
 
 ワイリーはいつだったか、エメットやマーシュ、他のクランメンバーと共に、氷魔ガラドを討伐しに行った時の事を思い出していた。あの気候変動の激しい山を越すとなれば、相当な体力と準備が必要だ。よほどの事情が無い限り、まず越えたいとは思わないだろう。

(・・・。)
 あれこれ考えるのは好きじゃない。手にしている酒を、一気に仰いだ。





 凄い訛りだったろ?ここらじゃ有名になりつつあるぜ、とマスターは続ける。

「だが、あの言葉のせいで雇い先は見つからないわ、人が良くて騙されるわで苦労しているみたいだけどな。」
「そうか・・・。」


 返ってきた釣銭をしっかりと握り締めた。その彼の一分始終を横目で見ていたエメットが、座席へと引き返していったのだが、ワイリーは気付かない。


「あいつ、此処に泊まっているのか?」
「ああ、昨日まで寝泊りしていたんだがな。今日からまた『仕事を探しで少し遠出するから』って、ついさっき出て行った、って所だな。」


 狩人が、自分と仲間の荷物を持ってこちらにやって来る。「一体何を入れたらこんなに重くなるんだ。」と不平不満を洩らしているが、ワイリーはまだ気付いていない。



「じゃあ・・・此処にはもう戻ってこないのか?」
「おそらくな。」



「そこまで分かっていたなら、さっき引き止めて欲しかったぜ・・・・・・・・・・・・っ?!」

 ワイリーの後頭部に、彼の鞄がクリーンヒットした・・・と見えたが、寸での所で彼はそれを回避し、うまく右手で捕まえる。




「エメット!てめぇ何しやがんだよ!!!?」

「恩を作ったのはお前だ、マスターに当たるな。
 危ない目に遭ったのは、お前の鞄が重くて人をイライラさせたせいだ、俺に当たるな。
 あと一歩惜しい所までいったのは、俺の腕とお前の回避の良さのせいだ、俺に当たるな。」


「最後のは感想か?自慢か?」
「褒めてやっただろうが。」
「ちっっっとも、嬉しくねぇよ。」
「相変わらず素直じゃないな。」
「・・・どっちが。」


 いいから離れろ、と、顔を引きつらせ詰め寄ってきたシーフを引き離し、パブの扉に手をかける。

「何処行くんだよ?」

 話はまだ終わってねーぞ、とワイリーが制止すると、まるで暗唱するかの様に彼は顔を上げて呟いた。

「まずはショップに寄って盗品を金に換える。」
「・・・。」
「それから町の中心部に行ってあの騎士を探して、釣を返す・・・と見せかけてその金もついでに渡す。」



「エメット・・・お前」
「単純な奴の考える事は、顔に出易いし、分かりやすいからな。さっさとしろ、急がないと、そのデカイ荷物片付けてからじゃ追い付けなくなるぞ。」


 目を丸くしているワイリーの前で扉が閉まる。カラン、と取り付けられている鐘が音をたてた。



「お前さんも早く行かないと、置いて行かれるぞ。」
と、マスターがパイプを吹かしながら笑う。




(あいつ、また人の事読みやがって。)

 気に食わない。
 でも、とワイリーは不敵な笑みを浮かべた。

(さすがにお前でも、最後までは見抜けていなかったみたいだぜ?)




「そうだな・・・んじゃ、俺も行くか。情報どーもな、おっさん。」
「だからおっさんはやめろ・・・ん?」

 いきなり、ギルを出された。宿代にしては、昨日より多い。



「三人部屋にしといてくれ。」

 ワイリーはそれだけ言い残すと、頼んだぜ!と店を出て行ってしまった。エメットの時には穏やかに鳴った鐘が、店内に響き渡るほど喧しい音を出して振れる。









「全く、分かりやすい奴だな。」

 マスターは苦笑した。カウンターには、飲みかけのワインが残されている。

 嫌いじゃないぜ、そういうのも。



「だがな・・・注文したからには残さず飲めよ。」




 パブの午後は、穏やかに流れていった。


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